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チガサキゴトよ、チーガ

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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.22 水彩画家・水彩イラストレーター
かとうくみさん   

このまちに壁画が増えているのは、なぜ?茅ヶ崎らしい景観について考えてみました。

カフェにサーフショップ、スーパーマーケットから日帰り温泉まで。ここ数年、茅ヶ崎のまちには壁画の描かれた建物が増えています。
壁画を手がけるアーティストのひとり、かとうくみ(通称:かとくみ)さんと、きれいごと委員長・かわていさんの対話から見えてきたのは唯一無二の雰囲気を持つ〈茅ヶ崎らしさ〉の正体でした。

かとうくみ 茅ヶ崎市在住。小さい頃から絵を描くことが好きで、独学で水彩画家に。2017年、雄三通りのPlenty’s本店に依頼されたことをきっかけに、試行錯誤しながら壁画を手がけるように。2023年5月現在の壁画作品は、茅ヶ崎市内に9ヶ所、市外に3ヶ所。壁画の制作は主に春と秋。

増え続ける壁画需要の中で

か:最近はまちの中に壁画をよく見かけるようになったと感じています。雄三通りを中心に、かとくみさんの作品も多くお見かけしますが、海をモチーフに幸せそうな人々の様子が描かれていて、その世界観がとても好きです。

く:ありがとうございます。私は水彩画が専門なので、いつもビクビクしながら描いていて…。

か:そうなんですか? 最初はPlenty’s本店の壁画でしたよね。

く:はい、もともとマスコットキャラクターを描いていたので6年くらい前に店主の長谷川裕さんにお声がけいただいたんですが、「私は水彩絵の具しか使ったことがないから壁画は描けない」ってお断りしたんです。「どうしても」と言ってくださって、線画で描かせていただきました。

か:それであのテイストになったんですね。

く:そうなんです。でもその3年後に、今度はD .PARADISE(写真P26下)さんが「フルカラーで描いてほしい」と。描き方が全然わからなくて、今なら10日前後でできるところを2ヶ月もかかってしまいました。

か:壁画と水彩画は全然違うテクニックなんですね。

く:水彩画は水彩紙に描くものなので、壁画は抵抗しかなくて。その後、雄三通り周辺では個人宅や「K -Ohana’s」(ハワイ料理店)、Shore Living(カフェ:写真P26上)、Hosoii Surf&Sports(サーフショップ:写真P24)とご依頼いただきましたが、壁画の需要が増えると、水彩を否定されているように感じてしまいました。

か:決してそんなことはないと思いますが、そう感じられたんですね。

く:でも去年個展を開いたとき、「壁画を見て好きになった」と言ってくれたお客さんに「壁画と水彩画、両方見て抵抗ないですか?」って聞いたら、「へ?」って反応で(笑)。ギャラリーのオーナーも「水彩でも壁画でも同じ人に見えるよ」って言ってくれて、見ている人にとってはどちらも変わらないんだと気づきました。「こだわっていたのは私だけ?」って。それなら壁画を続けてみようかなって思えたんです。

遠回りしたからこそ育まれたオリジナリティ

か:水彩画は独学なんですよね?

く:そうなんです、中高時代は運動部で。2つ年上の姉が美術部だったので私は変な敵対心から入部せず、大学時代も絵は趣味で描いていただけでした。Norman Rockwell(1894〜1978 アメリカ)に憧れていて彼は油絵画家なのですが私は経験のある水彩で描くようになって。水彩画は、もっと柔らかくて淡い色合いで描く人が多いんですが、Rockwellを目指して描いているから絵の具は濃いようです。それも水彩の作家さんたちに言われて初めて気づいたんですが(笑)。

か:今ではそれが独自の味になっているのはとてもいいですね。大学を出た後は?

く:実は大学時代に遊びすぎて留年しちゃって。私の単純な計算ミスで、週に1時間の単位だけ足りなかったんです。就職も決まっていたので担当の教授に「春休み全部使って掃除でもなんでもやるからチャラにしてくれ」ってお願いしたんですが、「それで回避できると思ってるの? あなたはそうやって甘えて生きていたんでしょ」ってピシリと言われて。週1回1時間のために通うなんてあり得ないと思いましたが、そのおかげで私、引きこもったんです。

か:おかげで?

く:はい、遊び回っていた私が。私の大学は制服があったんですが、ちょうど変わり目の年で、留年している私だけ違う制服で通わなくてはならなくて。目立つしみんなに陰で何か言われている感じがして、家から出られなくなっちゃったんです。でも2ヶ月後くらいに大学から電話がかかってきた時に、「やばい、また留年する。行かなきゃ!」と、初めてそこで自分になれたんです。

か:自分らしさに気がついたんですね。

く:自分がサボったこともすべてを受け入れて開き直っていこうって。学校でも堂々と授業を受けられるようになって、就職も本当にやりたいことをしようと、テロップを描きたくてテレビ局に行きました。もう開き直ってるから、美術を勉強したこともないのに面接でも全然平気だったんですよ(笑)。

か:開き直りで水彩画とテレビ画面のテロップがつながるんだ。

営業だったので一度も筆は持たせてもらえませんでしたが、テロップを描く様子を生で見られたのですごく勉強になって。そこから描くことが楽しくなりましたね。2年働いて結婚して藤沢に引っ越して来て、今度は藤沢ケーブルテレビで働きました。リポーターをしていたんですが、テロップを描きたいと言ったら「いいよ」って描かせてもらえて、そうしたら製作部の部長が「上手いね、番組表の表紙描いてみない?」って。1995年に入社したんですが、2年目から4年間毎月描きました。

か:番組表、懐かしい!  僕は当時、鵠沼海岸に住んでいたので知っていますよ!   でも、かとくみさんとはつながっていなかったなぁ。それがデビューですか?

はい、絵が印刷されたのはそれが初めてでしたね。その後東急ハンズで働いていろいろな画材を試すことができたことも大きかったのですが、おそらく藤沢ケーブルテレビの部長さんがいなかったら、今の私はなくて。もっといえば、あのとき大学の教授が叱ってくれなかったら絵は描いていなかったなと。末っ子で世渡り上手で、それまで辛いことを回避してきたから。

か:でもその資質とコミュニケーション力で、今はすごく上手く広がっていますよね。

く:いえいえ、いつも「私でいいんですか?」って思っています。

か:独学だし、壁画も専門外だし、そういう負い目みたいなものを感じている。でもだからこそ、仕事のお誘いをいただけると「嬉しい!」ってエネルギーが出て、それがかとくみさんのいいところなんじゃないでしょうか。

モチーフでは語れない〈茅ヶ崎らしさ〉

今回の取材場所「ひとやすみカフェShore Living」。ステッカーなど、かとくみさんグッズの販売も行っている /2020年7月/東海岸南3-2-70-1

冒頭でも言いましたが、かとくみさんが描く世界観は茅ヶ崎の空気感にマッチしているのでしょうね。アメリカ西海岸のような世界観を描かれていると感じますが、どの技法でも共感されているように思うんです。

く:おっしゃる通りRockwellが好きでアメリカが大好きで、最初はアメリカ旅行で撮ってきたものを描いていて。だから藤沢ケーブルテレビのお仕事のとき、日本人を描くのに抵抗があったんです。でも面白いことに、みんなが「この辺りの絵だね」って言ってくれて、「湘南らしさなんてひとつもないのに海を描けばみんなが自分の好きな海を想像してくれるんだ!」って気づきました。茅ヶ崎も描いてって言われるんですが、モチーフが烏帽子岩の他にはあまりなく難しくて。

か:僕も写真を撮るのでよくわかります。茅ヶ崎らしい被写体って的が絞れないですよね。でも最近はまちの中にかとくみさんの壁画が増えて、それがどんどん茅ヶ崎ならではの風景になっている気がします。どこのまちでも景観は個人の家やマンションや商業施設などの集積ですが、みんなが納得して幸せに暮らしている様子が積み重なって茅ヶ崎の景観を成していて、そのひとつの表れが壁画でもあるのではないかなと思うんです。

く:こんなに壁画が多いまちって、日本ではあまりないと思います。他のアーティストの方々の壁画も素晴らしいですし、表現という意味で個人宅も個性的な外観が多いですよね。まちに住んでいる人たちの思いが前に出て、長年かけて雰囲気をつくっているのかなと思います。

か:僕も自宅が景観を担っていると考えてウッドデッキに大きなリースを飾ったりしますが、どこにでもある観光施設を建設するのではなくて、多くの人が意識して景観を担っているのが茅ヶ崎らしさではないかなと。子育て世代の移住者が多いのも、このまちなら幸せに子育てできるという期待感があるからですよね。壁画の多い景観は、そんな期待が持てる茅ヶ崎の暮らしを象徴しているように思います。

く:私は茅ヶ崎のなんともいえない質素なローカル感がたまらなく好きです。個人店が多くて、オーナーのセンスが表れていて。

か:それをおしゃれに彩っているのが壁画ですね!


かとうくみ Wall Art Gallery

D.PARADISE SHOP+home(インテリア雑貨) 水彩画特有の陰影を初めて表現した壁画。ペンキを薄めて水彩画の要領で描いています。経年により出てきた味も素敵。 2019年3月/茅ヶ崎市東海岸北2-1-46 https://www.instagram.com/dparadiseshophome/
K-OHANA’S BEACHHOUSE(茅ヶ崎海岸海の家)今年も7月1日オープン!/ 2022年7月 K-Ohana’s Surf Locker & Cafe Dining(ハワイアンカフェダイニング)内壁と外壁にかとうくみさんの絵あります。/茅ヶ崎市東海岸南1-9 https://www.instagram.com/k_ohanas/
野天湯元 湯快爽快 ちがさき(日帰り温泉) 今回25周年の企画で、かとうくみさんの壁画(エントランス)と看板が設置されました。次は大浴場の富士山を描きたいそう。 2023年4月/茅ヶ崎市茅ヶ崎3-2-75 https://www.instagram.com/yukaisoukai_chigasaki/
中山動物病院(動物病院) 最新作の製作の様子。かとうくみさんの飼っていたゴールデンレトリバーも描かれています。この号が出る頃には完成しているはず! 2023年5月/茅ヶ崎市本村3-3-11 https://nakayamaanimal.jp/

“きれいごと”とはみんなが本当はこうした方が良いと思っている「きれいごと」。そのままに行動するとこれまでは揶揄されましたが、これからは未来世代のための行動を褒め称える社会をつくれると考え“きれいごと委員長”の川廷昌弘さんと共に創刊時から『チガサキのたくらみごと』として連載に取り組んでいます。


かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


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