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プロサーファー松田詩野
茅ヶ崎出身のプロサーファー松田詩野さんは今夏、タヒチ島チョープーで開催されたパリ五輪のサーフィン競技に出場しました。
6歳でサーフィンをはじめ、当時まだ少なかった女性のプロライセンスを13歳(中学2年生)で取得。21歳の今年、オリンピアンとなりました。
松田さんの劇的な競技人生は、サーフィンがオリンピックの正式種目になっていく歴史とぴったり重なります。
「悔しくて辛かった」と東京五輪の直前に開催された最終選考のWSG(世界選手権)に敗れて代表の座を逃した時を振り返り、乗り越えた現在は「それもあって、今があり、これからにつなげてくれる」と成長の歩みを止めません。
真摯な態度で自然と向き合って、目標をまっすぐに見つめています。
パリ五輪の余韻にひたることなく、つぎの大会に挑戦中の松田詩野さん。ひととき茅ヶ崎へ戻ってきたプロサーファーに、「これまで」と「これから」を聞きました。
サーフィン日本代表のなかで唯一の女子選手だった松田さん。はじめてのオリンピックは9位でした。
パリ五輪を振り返っていただけますか
1年前に(出場が)決まったということもあって、練習できる時間は多かったので、できるかぎりタヒチの会場に行って波に慣れていきました。ローカルの方たちとも仲良くさせてもらって、だんだんとタヒチに馴染んでいくことができました。その準備のおかげで本番では、「やっとここで試合ができる。いつもの練習通りに」という感覚になりました。オリンピックならではの準備ができたのは、とてもよかったです。
パリ五輪を振り返っていた海外の選手もおなじように取り組んでいたのですか
タヒチで試合を経験したことのない選手は、長期間滞在して練習していました。
すごい波でしたね
タヒチは特別な波として世界的に有名です。危険な波ともいわれています。恐怖心もすごくあったのですが、それ以上に、海で練習していくにつれて、もっといいチューブに乗りたいというチャレンジする思いの方が強くなっていきました。
タヒチの波を理解しているように感じました
いい波を待って、しっかり乗ることが大切でした。その波を読む力であったり、うねりの向きであったり、そこを意識して練習に取り組んでいました。オリンピックのラウンド1、ラウンド2ではすごくいいチューブをぬけることができて、練習の成果が出せたんじゃないかと思います。
このボードもタヒチに
持って行きました。これは普通の波用のサイズなので、タヒチのチューブには小さかったです。オリンピックの時はもう少し長い板でした。板はコーチと話し合いながら、自分なりの感覚を確かめながら選びました。練習でいいチューブを抜けたからこれでいこうとか、ゲン担ぎみたいな部分もあります。タヒチでは競技中に浜へあがることができないので、コーチが海に入ってバックアップの板を持っていました。
会場にパリ五輪の雰囲気はありましたか
あまり感じなかったのですが、世界規模の大会なんだなと思わせる盛り上がりはありました。選手とスタッフが日本チームとして一丸となった集中力は、ほかの大会ではないようなものがあって、自分も気が引き締まりました。一番の違いは、現地でライブ応援してくれる人の数が多いことで、そこはオリンピックを実感した部分でもありました。
選手村だったクルーズ船に滞在していたのですか
ジャパンハウスとして会場の近くに家を借り、そこからクルーズ船まで通っていました。日本選手とスタッフ、栄養士さんやコーチ、ドクターなどと一緒に宿泊していました。期間中は緊張することもなく、みんなでご飯を食べて、試合以外の時間をリラックスした雰囲気で過ごせました。それはすごくよかったです。選手村の船は沖合に停まっていて、アメリカ、ブラジル、日本、フランス、オーストラリア以外の国の選手は宿泊していました。船は魚や肉が中心のタヒチアンフードが美味しくて、ジャパンハウスでは豚の角煮とか、和食がすごく美味しかったです。
閉会式は参加されました
もともとパリへは行く予定でした。開会式に出ることができなかったので、「閉会式は行っておいたほうがいいよ」と周りからも言われていて。世界中のトップアスリートの方がまわりにいて、すごく刺激になりました。ようやくオリンピックを実感することができて、「またこの場所に戻って来たいな」と強く思いました。
小さな頃から目標にしていたのは、WSLのCT選手になることと、オリンピックのメダリスト。
次回ロス五輪までにWSLもあります
QSからCSに上って、大会でいい成績を残してCTに入り、そこでトップ5に入ることが、小さい頃からの目標でもあります。また、4年に一度というオリンピックの舞台はサーフィンをたくさんの人が応援してくれる場所なので、自分も経験することができてさらに強い目標になりました。4年後はあっという間だと思うので、しっかりとスキルアップして、CTへの参加とオリンピックのメダル、どちらも狙っていく気持ちです。自分の活動によって、サーフィンという自然と共存するスポーツを、たくさんの人に見て感じてもらえたらうれしいとずっと思っています。
そのために取り組んでいることは
いろいろな波で練習して、得意不得意をなくすように心がけています。海で反復練習するのは難しいので、ウェーブプールにも通って、フォームをチェックしながら自分の苦手な部分を直しています。
タヒチの波を経験できたのは大きかったですね
オリンピック会場だったタヒチ島のチョープーは、CTの会場としてもスケジュールに組み込まれているので、そこは自信を持って臨める今後の強みになるのかなと思います。
WSLの成績とオリンピックの出場基準は違う
そこは違います。ISAが主催するWSGという世界選手権の日本代表に選ばれて、そこでトップに入ることがオリンピック出場へつながります。ですが、ISAの代表選考はWSLのランキングが加味されることもあるので、海外での成績をしっかりとっておくことが今後につながっていきます。
現在はWSLのQSに参戦しています
今、QSでアジアのいろいろな会場を、をまわっています。年内はすでに5戦を終えて、これから3戦あります(取材時は10月初旬、取材後に中国の大会がなくなり年内は2戦になりました)。
大会は来年4月まで続きます
来年4月までのQSのポイントがCSに反映されるので、そこまでにポイントをとって、女子は(アジア枠で)トップ3に入るとCSへ行くことができます。10月末くらいからフィリピン、台湾と続いていきます。ここが大きなグレードの大会なので、日本、インドネシア、オーストラリアからも選手が参戦します。獲得できるポイントが大きいので、成績次第でランキングがあがります。
アジアは日本人が上位を独占しています
女子はとくにそうですね。オリンピックの正式種目になると、これまで出てこなかった中国などからも育成された選手が出場してくるので、負けないようにがんばらないとです。茅ヶ崎でサーフィンをしていても、女性サーファーを何人か見かけるようになりました。私がサーフィンをはじめた頃は男の子に混じってやっていましたが、最近は増えてきているかなと感じます。
現在はWSLそれは松田さんの影響も大きいのでは
「詩野ちゃんに憧れてサーフィンをはじめた」と言ってくれる子も多くて、それはすごくうれしいですし、もっと自分が上のレベルにいって、日本のサーフィン界を強くしていきたいです。インドネシアやフィリピンへ行った時も、女性のサーファーとして注目されました。世界的にも女性の競技人口は増えています。オリンピックの影響は大きいですね。
やわらかな表情と競技への強い想い。小さなことを積み重ねるオリンピアンは、サーフィン界のアイコンに。
サーフィンをはじめたきっかけを教えてください
小さい時から海で遊んでいて、水泳も習っていたので、水への恐怖心があまりなかったです。(市立東海岸小学校1年生で)サーフィンのスクールに通うようになって、のめり込んでいきました。
13歳でプロ資格を取得し、14歳でプロになりました
日本はプロのライセンスを取得するための大会があります。海外だと、大会で勝ってメインスポンサーが付けばプロと呼ぶような国もあるみたいです。行ったことのない国でサーフィンをしてみたいという気持ちをずっと持っていました。そこから、大会で勝つことが楽しくなっていって、海外の試合にも出てみたいと自然に思うようになっていきました。
海の変化を感じることはありますか
小さい時から同じ海に入っていると、砂浜が減って地形が変化していることに気付きます。世界中の海に入ると、自然の力には絶対に敵わないなと思います。潮の流れや波のうねりの向きをちゃんと知っておくことは、サーフィンの上手な人ほどやっていることです。静かに見えても流れが強かったりしますので、海の知識がないまま沖へ行くのは危ないです。
小学生の頃からサーフィンノートを書いているとか
目標やスケジュールを書いています。毎日必ずではないのですが、ルーティンとして、自分の頭のなかを整理するためにノートを使っています。幼い頃はあまり考えていなかったですが、大きな大会が増えていき、やらなければいけないことや考えなければならないことも増えていって、それらをノートに書くことによって自分なりに整理することができて、それがとてもよかったので続けています。
色紙に書いた「1mm進化」の 言葉の意味を教えてください
東京五輪の頃から頭のなかにある大切な言葉です。毎日取り組んでいたら、すこしずつでも成長できて、結果として大きなものになる。たとえ1ミリの取り組みでも、続けていれば結果は出る。日々成長できる。小さなことでも、自分がよくなることはやっていきたいです。
観戦のポイントを教えてください
サーフィンは現地で実際に観戦することが一番です。迫力があって、波のサイズ感もわかりやすいと思います。選手によってスタイルが違うので、配信映像ではそこ(波の乗りこなし方やボードのコントロール、ウェアなども確認することができる)を観るのが面白いと思います。
松田さんのスタイルとは
身体をしなやかに使ったサーフィンだと褒めてもらうことが多いです。もっとパワーをつけたいとも思っています。サーフィンは全身運動なので、ストレッチとトレーニングは欠かせません。
そこを観戦ポイントに応援します
ありがとうございます!
松田詩野さんが挑戦している大会WSLとISA
写真:位田明生
文:小島秀人(株式会社カノア)
ヘアメイクサポート:ヴィルップ愛美(ビオリー湘南)
撮影協力:マルソルC.S.ビーチホテル