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茅ヶ崎うまれの ものさがし

file.06 ラチエン通りの魚屋さん 魚富(うおとみ)

魚富

食べてみやんせ
茅ヶ崎名物・
極上のアジ

魚富

「これ、今朝定置網で捕れた刺身用のアジね。一尾350円。小さい方はフライや酢の物がおすすめ、刺身で食っても美味いけどさ」

 店先で響く、威勢のいい大将の声。思わずつられてガラスケースをのぞくと、そこには捕れたてホヤホヤのアジの大群。ピッチピチで新鮮なだけでなく、厚みもあってナイスバディ。それにしても、アジってこんなにツヤツヤしてたっけ?

 「茅ヶ崎のアジはすごいのよ。シラスと並ぶ名物だね。地のアジを一度は食べてみやがれって感じだね(笑)」

魚富

 大将いわく、茅ヶ崎はそれは様々な魚が取れるのだそう。ブリ、イワシ、サバ、ヒラメ、伊勢エビ、

ヤリイカ、タチウオ。もう頭の中は美味しい水族館状態。でも、正直魚ってうまくさばけない。魚屋さんで魚を買ったこともないし……。

 「心配しなくていいよ、うちでさばいてやるから。一匹だってやるし、人数や値段を言ってくれたら適当に見繕って刺し盛も作ってやるよ。器はこっちでも用意できるけど、持ってくればそれに盛り付けることもできるよ。店に来る前に電話くれるといいかな、待たせずにすむからさ」

 何と細やかな心遣い。大将、見た目はイカツイけど、優しく懐深いお方なのでした。

深夜1時から15時間!
すべてはうまい魚を
食べてもらうため

 大将の朝は、めちゃくちゃ早い。というか、人が寝ている深夜に起きて、平塚や小田原や横浜の市場と連絡を取り、目当ての魚を仕入れに走るのだそう。モタモタしてると高値で仕入れる大きな店にいいのを持っていかれてしまう、というのがその理由。

 「寝てらんないのよ、いいのが入ったぞー  って電話がかかってくるから。魚屋どうし、そうやって教え合って助け合うわけ。で、朝の8時頃に戻ってきて、魚並べたりさばいたりしてると、もう

魚富

11時半頃にお客さんが来ちゃう。飯食ってる時間もないし、1日15時間くらいずーっと立ちっぱなし。だけど、お客さんに『美味しかったわよ』って言ってもらえると、やっぱり嬉しいんだよなぁ」

 昔からの常連ばかりかと思いきや、店には若いお客さんが訪れることも多いとか。お客さんとの気のおけないお喋りは働く楽しみの一つ。そう語りながら相好を崩す大将の魚、みなさんぜひぜひ食べてみやんせ!

鈴木さんと
ラチエン通り

桜並木が美しく、
かつては何十軒も
お店が並んでいたんだよ

 魚富の店主・鈴木照久さんがここにやってきたのは5歳のとき。当時このあたりはさつま芋畑で、1本西の一中通りまで見渡せたのだと言います。ラチエン通りは砂利道で、道の両側には桜の木が植えられ、春になると桜が満開、のどかでいいところだったと鈴木さんは振り返ります。

 「今から60年前だね。その頃はこの通りにもいーっぱい店があったんだよ。全部で50店舗くらいあったんじゃないかな。肉屋があって、八百屋も2軒あって、魚屋もうちのほかに2軒あった。けど、少しずつなくなっていっちゃったんだよ。」

 どの店も子どもが後を継ぐことはほとんどなく、鈴木さんのお子さんも会社勤め。昔は魚屋は儲かったけれど、乱獲や海水温の変化で獲れ高が減って魚は値上がりし、昔のように売れなくなってしまった。儲かるどころか出費もかさむ魚屋を子ども

に継がせるのは忍びないと、鈴木さんはちょっと遠い目をして語ります。

 「俺、昔ヤンチャしててさ、女の子誘ってドライブして、バイクや車で遊び回って、雇ってくれる会社なんかいっこもなくてさ(笑)、で、親父の後継いで魚屋になったわけ。けど、当時はそれで結構食っていけたのよ」

 通りにあった120本に及ぶ桜の木は、周辺の畑への悪影響と、車社会になるに従い撤去されたと言います。諸行無常は世の習い、さよならだけが人生。でも満開の桜に彩られたラチエン通りを、一度歩いてみたかった気もします。

 「あの頃は俺、リーゼントでさ。カッコよかったんだぜ。写真、見せてやりてぇよ。何? 見る影もない? みんな若い頃は毛があったんだよぉ〜(笑)」

魚富
鈴木照久さん

INFORMATION

魚富(うおとみ)

住所 東海岸北4-16-8
駐車場 P2台
TEL 0467-82-4738
営業時間 13:00~18:00
定休日 水、日・祝日休 

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