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茅ヶ崎の出版社“kanoa”の広げて、声に出して楽しむ絵本 「あっちの耳、こっちの目」ミロコマチコ
茅ヶ崎うまれのものさがし file.19
こんな絵本、見たことない!
じゃばら式になが〜く繋がった野生動物の物語が
ひとつの箱に6冊納まったユニークな絵本です。
ミロコマチコさんの描く迫力のある動物の絵と
観察眼の鋭い独特な文章は、まるで森の中で野生動物と
対峙したかのような感覚で引き込まれること間違いなし。
この絵本を創った茅ヶ崎の出版社“kanoa”の小島秀人さんにふたつの質問をしてみました。
ミロコマチコさんと小島さんの制作過程での秘密のやりとりを聞かせてください
ウェブ連載「空気に絵を描きたい。」の著者ミロコマチコさんから、「山形ビエンナーレに出品した立体を絵本にできたらいいな」と相談されたことがきっかけでした。その立体とは、人と野生動物が遭遇する話を描いた山車を主人公の動物たちが引っ張っている姿に造形した、まるで紙芝居屋のような、とてもユニークな作品でした。
里と森の境目で、人と動物の世界が交わってしまう。そのとき、お互いはなにを見てなにを考えているのだろうか。東北の人たちから聞いた実話を「あっちの耳」と、動物の視点に立って創作した話を「こっちの目」と名づけて、山車の外側と内側にそれぞれの場面を描写するという、たいへん凝った構造です。
「これは絵本になりますね」と返事をしたものの、一見わかりづらい、ひとつの物語に宿っている異なるふたつの視点を、どんな形の絵本にしたらよいのか悩みました。ミロコマチコさんからは、東北弁の響きを体感してもらいたい、声に出して読んでもらえたらうれしい、といった希望もお聞きしました。
じゃばら式の冊子を箱に収納するという珍しい絵本はどのようにうまれたのでしょうか
一般的な本の形にすることも考えたのですが、それでは、声に出して読んでみたくなるような絵本にできるとは思えませんでした。そこで、編集者やデザイナーらといろいろな意見を出しあい、その方法は実現可能かを印刷・製本の担当者にたしかめながら、造本と装幀を検討していきました。
そうやって、じゃばら状の紙の表裏で物語を展開するアイデアが浮上したときに、ぼくは「おもしろい」と言い、みんなで「これだね!」と盛りあがったのでした。
日本語は縦に書かれたものを右から左へ、横に書かれたものを左から右へ読んでいきます。綴じ方向の違いを利用すれば、じゃばらの表に縦組みで「あっちの耳」の本文を、裏には横組みで「こっちの目」の本文を入れることができます。表裏の頁数をあわせるために、絵の流れと文字のバランス、大きさを調整していきました。6冊のじゃばらを収納するオリジナルケースは、山車の雰囲気を再現したくて観音開きにしました。
「転機になった」と学芸員の方から評価されるほどの立体作品を、絵本にすることができてよかったです。東北の人たちの話す言葉に耳を傾けて、動物の目から見える景色を想像しながらじゃばらをめくれば、きっとおもしろいと思います。
『あっちの耳、こっちの目』は、東北の人たちから聞いた野生動物にまつわるはなし(あっちの耳)と、同じはなしをミロコマチコさんが動物がわの目になって創作した(こっちの目)が、じゃばら式の表裏になり、広げてたのしむ絵本になりました。じゃばらをめくってパタパタ広げて、ぜひ声に出しで読んで『あっちの耳とこっちの目』の世界に触れてください。
「カモシカ」「クマ」「ウサギ」「トリ」「ヘビ」「コウモリ」の6冊の絵本と、解説書がひとつのケースに収納。それを開いて6つの動物の物語に出会うとき、ミロコマチコさんの描く生きものたちに圧倒されるはず!