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チガサキゴトよ、チーガ

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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.21 神輿・提燈工房
茅ヶ崎 神輿康
中里康則さん 

せっかくご近所に住んでいるんだから 、
移住者もみんなで神輿を担ぎたい。
茅ヶ崎・寒川だから実現できる
“祭りを中心としたまちづくり”とは?


「とにかく神輿が好きすぎて、神輿と生活がしたかった」と、幼少の頃からの神輿愛を惜しげもなく披露する中里康則さん(通称:やっちゃん)。

神輿や提燈の新造・修復・メンテナンスを行う「神輿・提燈工房 茅ヶ崎 神輿康」を営み、現在までに100基ほどの神輿の新造と修復に携わってきました。茅ヶ崎市内外に3箇所ある工房には、自作の神輿を8基も所持しているのだとか。

同時に中里さんは、浜降祭に参加する松尾(今宿)の神輿保存會會長として、祭り文化の保存・継承にも尽力。「移住してきた人にも、神輿を担いでもらいたい」と、さまざまな活動を展開しています。

きれいごと委員長・かわていさんとともに茅ヶ崎のキーマンを訪ねる「チガサキのたくらみごと」。今回は、そんな中里さんの事務所兼工房へ。神輿と祭りと地域への愛にあふれた浜降対談、どうぞお楽しみください。

—-

浜降祭
湘南地方随一とも言われる夏の祭典。毎年7月の海の日、茅ヶ崎市・寒川町の34神社から神輿39基が夜明けと共に茅ヶ崎・南湖の西浜海岸に参集することから「暁の祭典」とも呼ばれています。「どっこい、どっこい」という勇ましい掛け声、大小様々な神輿が砂浜で乱舞する光景、多数の神輿が担ぎ手とともに次々に海に入っていく「禊(みそぎ)」など、見どころたっぷり。茅ヶ崎の4大祭りのひとつである浜降祭は、1978年に「神奈川県無形民俗文化財」に指定され、1981年には「かながわのまつり50選」にも選ばれています。令和2年から中止を余儀なくされた浜降祭が令和5年の今年、4年ぶりに開催されるかどうかが注目されます。

(※Cheeega21号印刷後、2023年の浜降祭の開催 が決定しました)


「そこに神輿があるから」
幼少期からブレない神輿愛

今も工房に大切に飾られている中里さんが高校生のときにつくったミニ神輿を手に取りながら

か:まさに御神輿と生活しているような工房ですね。中里さん自作の神輿も素晴らしい精緻な出来栄えで驚きました。

康:幼い頃から、神輿が好きで好きでたまらなくて、そこだけはブレずに生きてきたので(笑)。

か:そもそもどうして御神輿の作り手に? お父様の影響か何かでしょうか。

康:僕が初代です。親父は銀行員でして(笑)。

か:え、初代なんですか!?

康:そうなんです。ここ今宿には松尾大神の神社があって、その横に実家が今もあるんですが、自分が5歳のときに神輿ができたんです。それまでは子供神輿しかなかったところを、大きな神輿が新調されて。それに魅了されて、欲しくてたまらなくなってしまったんです。

か:御神輿を「自分のものとして欲しい」という感覚なんですね。

康:幼稚園の頃からひとりブロックで神輿をつくっていたりして。小学生の時は割り箸でつくって、高校生の時はこんな模型までつくったんです。浜降祭の神輿には必ず鈴がついていますが、それに見立てて音楽の授業で使うようなベルを解いたものをつけたり、屋根の上の鳳凰は、アルミ缶を切ってつくったり、パーツも自分で工夫して集めて。

か:すごい完成度ですね。でも、なんでそんなに好きなんでしょう。

康:なんでって、「そこに神輿があるから」としか言えないですね(笑)。小さい頃からおばあちゃんがお祭り好きで、あちこち連れて行ってくれたんです。手先の器用さは、船大工だったおじいちゃん譲りなのかもしれません。

「好きすぎちゃうものは取っておいた方がいい」
担任の先生からのアドバイス

か:幼少期の環境や体験が刻まれているんでしょうね。そんな少年がその後どのように開業に至ったのですか?

康:この模型もみんなにはすごいって言ってもらえましたが、本物じゃないと僕は満足できなくて。高校を出てすぐに浅草や千葉の神輿屋さんに就職しようと思ったんですけど、担任の先生が「好きすぎちゃうものは取っておいた方がいい」ってアドバイスをくれたので、まずは大工さんになって木を扱う技術を得ることにしました。4年で木造住宅を任されるようになって、帰ってきてすぐ1997年に神輿康を開業して自作の神輿を作り始めました。

か:じゃあ特別な修行はせずに独学で?

康:大工をしていた4年の中でも諦めきれなくて、「神輿が欲しい」という一心でちっちゃい模型を作ったりしていて。1号基は子ども神輿、2号基は担げるサイズの神輿を、全て手作りしました。

か:1基つくるのに、いくらくらいかかるものなのですか?

康:2号基は金具だけで450万くらいかかっていますね。自分の神輿だから烏帽子岩や左富士、家族の干支など大好きなものを彫りであしらっていて、鳳凰もかなり立派なものなので。

か:そうやって本当に好きなものを仕事にされて。注文は届いていますか?

康:北海道、青森、山形、群馬などの大きい神社が声をかけてくれて、東日本を中心に新造と修復を合わせてこれまでに100基ほどやらせていただいています。自分が担ぎに行った先で修復の注文を受けるなど、そのほとんどが口伝えです。好きが高じてやっているのに、ありがたいことですね。

一緒に神輿で汗をかく関係性が
「何かあったとき」の安心に

か:御神輿といえば、僕自身も故郷で子供神輿を担いでいましたが、大人になって遠ざかってしまいました。

康:現状は神社離れや寺離れも起きてしまっていますよね。でも、神輿は同じ地域に住む子どもやおとな、おじいちゃんもおばあちゃんもみんな一緒にやるものじゃないですか。身近なコミュニケーションツールなんですよね。か:本来はそうですよね。

康:僕の思いとしては、この地域も大きな地震がいつか起こると言われている中で、お祭りで顔を合わせて一緒に汗をかいた仲間なら、被災したときも「お祭りで会ったお兄ちゃんだ」、「楽しいことを一緒にやったことがある」という関係性で助け合えるんじゃないかと。そういうところもお祭りの良いところだと思っているんです。

か:ただ、茅ヶ崎は僕のような移住者がとても多いまちになって、祭りによる顔の見える関係性が薄れてしまっているのかなと。移住した頃はまだ仮住まいだったこともあって「浜降祭にはどんな人が参加しているのかな」と思っていました。

康:移住してきた方も、みんな茅ヶ崎の人じゃないですか。僕は一緒に楽しみたいので、お祭りのときは率先して新築が建ったエリアにあいさつに行っています。そうすると、お子さんと一緒に出てきてくれたりして。「一緒に担ぎませんか?」ってお誘いしたりもするんです。

か:いいですね。僕は自宅の前を御神輿が通るのですが、を張ってもらったことで一気に身近に感じるようになりました。子どもがいるご家庭はきっかけも多いと思いますが、大人でも何かきっかけがあれば参加のハードルが下がりますね。


祭りを中心にした
この地域らしいまちづくり

康:そうやって祭りを中心にしたまちづくりをしていきたいですね。祭りの準備をしながら、僕みたいにここで生まれ育った人が子どもたちに昔の話をしてあげたり、逆に移住してきた人の話を聞いたり。子どもたちにとっても、学校では出会えない多様な人々と触れ合う時間が大事だと思うんです。

か:茅ヶ崎・寒川のような規模感の地域で39基も御神輿があるってきっと珍しいことですよね。こんな時代だからこそ、御神輿によるこの地域らしいまちづくりができたらと思います。

康:本当に小さい町内に神様がいる。特殊だと思います。地域で触れ合える場所が近くにあるんだから、お祭りだけじゃなくて、地域のみんながダンスや歌でステージに立てるような「氏子(うじこ)フェス」をお宮でやったらいいんじゃないかなって。そうやってみんなが集うことによって、何かあった時も「あの神社に行けば知り合いがいる」って安心できるようなまちをつくりたいです。

か:神輿を担いでコミュニティの絆を確認するというやり方もあるし、今はマルシェやフリマといった集まり方もある。祭り以外も含めてみんなで入口をつくって、神社を活用した地域のつながりをつくっていけたらいいですね。

康:浜降祭の34すべての地域でそうなればいいですね。自分たち大人がいい汗かいて笑顔でやっていれば、子どもたちも来てくれると思うんですよね。少しずつ輪を広げていきたいです。

か:ハードルの低い全然違うところからコミュニティに入っても、中心にいる人が「いろいろあっても最後は神輿担ごうぜ」ってみんなに声をかけてくれると、浜降祭も違うイメージになる気がします。茅ヶ崎・寒川らしい、浜降祭の磨き方が見えてきましたね。

担がなくても参加できる
「花掛け」や「おひねり」

か:そんな浜降祭も3年間休止でしたね。

康:コロナを逆にチャンスと捉えて、また盛り上げていきたいです。好きで神輿屋をやっている自分の役割は、ただ新造と修復をするだけじゃない。お祭りという存在が地域を良くするツールといいますか、心の拠り所であり、みんなが笑顔で過ごせるきっかけになればと思っているんです。

か:浜降祭初心者は、まずどうしたら参加できるのでしょうか?

康:松尾大神(今宿)の神輿保存會では無料の練習会をやっているので、ぜひ来ていただけたら。いつもは6月からですが、今年は4月から始める予定です。地域の壁もなく、今宿以外の方でも誰でも歓迎します。浜降祭に参加する34の神社はみんな「自分たちが一番」と思っていますが、争うわけじゃなくて多様性としてお互いを認め合っている。練習会での合言葉は、「浜で会おうね」って。浜降祭の日に浜に行けば、どこの人でも一緒に楽しめて汗をかけますから。

か:競い合わず多様性を認め合う文化は、今の社会に必要なことですね。やっぱり担ぐのが一番いいとは思いますが、それができない人の参加方法もありますか?

康:もちろん見るだけでもいいですし、「花掛け」という参加方法もあります。

か:花掛け?

康:「花」は祝儀のことです。浜降祭の前日に、自分の住んでいる地域の神社に気持ちとして祝儀を持っていくと、紙に名前と金額を書いて掲示板に

掲げてもらえる。これを「花掛け」と呼んでいます。祭りの当日には「おひねり」として、お金を紙にくるんで渡してもらうのも大歓迎です。あまり意識しないと思いますが、お祭りって寄付で成り立っているんですよね。たとえば浜降祭で使用するハチマキやタオル、飲食も、すべて寄付が元手となっています。寄付って気持ちなので強制ではないのですが、そういう参加方法もあることは知ってほしいです。

か:担ぐ参加、観る参加、そして花がけ、おひねり。参加方法も多様性ですね。

康:お祭りは気持ちで成り立っています。どんな参加方法でもいいので、みんなで盛り上げて一緒に浜降祭を楽しみましょう!



神輿を世界へ!
やっちゃんの情熱が生み出した神輿康の国際交流

ハワイ (ホノルル)2016年
茅ヶ崎市との姉妹都市協定締結(2014年)をきっかけに、ホノルルのローカルの51校、延べ400名の小・中・高校生に浜降祭などについてボランティア講演。神輿の体験も行った。

カナダ (バンクーバ)2017年
2017年、日本のお祭りに関する講演依頼がきっかけで始まった。神輿を担ぎたいという要望が届くも、寄付文化のないカナダではなかなか資金が集まらず、見兼ねた中里さんが「みんながいい汗かいて楽しんでくれたら」と、神輿を寄付。コロナ前までは毎年カナダの建国記念日・7月1日に現地に行き、一緒に担ぐことで交流を続けている。

〜番外編〜 一番弟子のダグラス
カナダの大工の若者が「神輿を作りたい」と中里さんに懇願。熱意に押されノウハウを教示すると自作した神輿の模型を空港まで見せに来てくれた


神輿・提燈工房
茅ヶ崎 神輿康(みこしやす)

1997年創業、中里康則さんが一人で営む神輿工房。今宿にある事務所兼工房をはじめ、市内外に3箇所の工房を構え、神輿や提燈の新造・修復・メンテナンスを行う。名入れ弓張提燈は通販対応も可能。「お客様の要望に応えること」をモットーに、全身全霊をかけて全ての注文を手作業で行っている。  
今宿699-1   ☎090-8107-1239 
HP https://mikoshiyasu.wixsite.com/mikoshiyasu

これまで100基ほど新造と修復をしてきた中里さん。神輿の構造は地域や時代によって様々でひとつとして同じものないのだと言う。

“きれいごと”とはみんなが本当はこうした方が良いと思っている「きれいごと」。そのままに行動するとこれまでは揶揄されましたが、これからは未来世代のための行動を褒め称える社会をつくれると考え“きれいごと委員長”の川廷昌弘さんと共に創刊時から『チガサキのたくらみごと』として連載に取り組んでいます。


かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


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