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村田屋 四代目 内田汐里さん
しなやかなアンテナで老舗に新風を吹き込む 村田屋 四代目 内田汐里さん

見えないところにも手間をかけ、楽しみを演出する練り切り。
新春を告げる水仙を表現した可憐な練り切り……この気品あふれる美しい和菓子を作るのは、和菓子職人の内田汐里さん。昭和二年創業の老舗和菓子店・村田屋の四代目です。

練り切りは、白餡に牛皮を練り込んだものに細工を施して作ります。素材を掌の中で形成し、道具を巧みに使いながら花弁などの細やかな装飾を施していく様子は、まさに和菓子ならではの繊細さ。指先の技が求められる難しい作業に見えますが…。
「一番難しいのは、餡子を包む包餡という作業ですね。和菓子を作る基本動作なのですが、左手の掌だけを使って、左右どちらにもうまく回せるようにならなければいけないんです」
たしかにこの作業、一見地味に見えますが、鍛錬を重ねなければ素早くきれいに丸めることはできません。「正解のない装飾の作業に比べて、到達点が明確な包餡は訓練が求められる」と汐里さん。
ちなみに、この水仙の練り切りは二つに切ると、白・黄色・緑色の三層になっています。外側からは見えないところに驚くほど手間かけ、さりげない楽しみを演出する。練り切りをいただく際は、そんな隠れた心意気も堪能したいものですね。
新商品はワイン入り!ネーミングもパッケージのデザインも、ぜんぶ担当
汐里さんのアイデアが詰まったワインでつくる紅白の「なぎさ糖」 。ネーミングは茅ヶ崎らしさを込めて

まるで宝石のよう。これからのクリスマスやお年賀に喜ばれそうな、白とワインレッドの琥珀糖。
「村田屋ならではの和菓子をと、考案しました。琥珀糖は寒天に砂糖を加えて作りますが、うちでは赤ワイン、白ワインをそれぞれ加えています」
と汐里さん。和菓子とワイン。滅多にお目にかかれない組み合わせですが、甘味の中にほのかにワインの余韻が残り、上品で大人なお味が楽しめます。
ちなみに茅ヶ崎らしさを込めて汐里さんがつけた名前は「なぎさ糖」。パッケージもデザインしました。クリスマスのちょっとした手土産や年始のお年賀にも重宝しそうです。
なぎさ糖 700円
和菓子そのものがとても好き。今は和菓子の魅力を伝えることに興味があります
汐里さんは幼い頃から家族や親戚が働く和菓子工場が遊び場でした。幼稚園では粘土で和菓子を拵えたりするような子だったそう。専門学校で和菓子を勉強。卒業後、三年ほど都内の和菓子店で販売を学び、実家の村田屋で働くようになった。看板を守り、家業を継いでいく気合い満々かと思いきや、意外な答えが返ってきます。
「もちろん店も大事ですが、私は和菓子そのものがとても好きなんです。作ったり売ったり、何らかの形で和菓子に携わりながら、和菓子の魅力や和菓子でできることに考えていきたいと思っています」
現在は市内のスペースを借りて不定期で和菓子作りの体験教室を開いたり、小学校の特別支援学級の子どもたちに和菓子を通じて季節感を感じてもらう授業をしたりと活動の場を次々広げている汐里さん。
おいしい、美しいだけでない、人々を豊かに、ワクワクさせるような新しい和菓子の魅力が、ここ村田屋から始まりそうな予感です。