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Passific Brewing
萩園
醸造所(ブルワリー)が誕生して半年余り
29歳のコンビが造りだす、注目のクラフトビール
醸造を担当する大庭さんと、醸造以外を担当する山本俊之さん。この29歳のコンビが昨年9月、萩園にクラフトビールの醸造所「パシフィックブリューイング」(以下パシフィック)を誕生させました。
「物件探しに半年。ようやくこの場所に出会いました。金属加工の工場を閉鎖して10年間そのままだったので、中にあった機械を出すのを手伝うところから始めました。看板は雰囲気や佇まいが気に入ったのでそのまま残しました」
製造をはじめてから半年ちょっと(取材時4月)の製造状況を聞くと、1回のタンクでできる量は500リットル。それを缶ビール20ケースと、生ビール20本(15リットル:1本)にする。これを月にだいたい6〜8回行っているとのこと。
「今は生産能力の7〜8割で稼働しています。8割が僕ら2人でまわす限界だと思っていて、フルに稼働するには更に人手が必要なので、しばらくはこのペースで様子を見ようと思ってます」 販売先は市内のみならず全国にも出荷している。店頭に並べたとたんに羽が生えたように売れ、手に入らないと嘆く人も多いパシィフィックのビール。好調な出だしに浮き足立っても良さそうなものですが……
「少しすれば自然と需要と供給があってくるタイミングがあると思います。まだ始まって半年しか経ってないので」
なるほど、冷静なふたりです。
『歴史に学び、現代を生きる』
流行に流されず、伝統に縛られないハイブリッドなスタイルで
クラフトビール業界は、ここ数年「第3次ブーム」と呼ばれ、全国的に醸造所が増えています。
技術開発の下地ができ、クラフトビールの認知度も含めて市場が温まってきた状態があっての「第3次ブーム」。
これから参入するパシィフィックは、どのようなビールを作っていこうと考えているのでしょうか。
「ビールをざっくり大別すると、2つになります。ヨーロッパにルーツを持つ伝統的なビールと、流行の先端をいくアメリカを中心としたビールです。アメリカは伝統的なヨーロッパの製法を独自にアメリカ流にしながらクラフトビールを盛り上げてきた国ですが、今はそれも成熟してきて世界規模で入り混じり、同時多発的にいろんなスタイルが出てきている状態です」
ではパシフィックが考えるクラフトビールのスタイルとは? と尋ねると
「僕たちは『歴史に学び、現代を生きる』というポリシーを持ちながらビール造りをしています。やはりアメリカで流行しているスタイルを追いかけた方が、真新しいし面白いし人気が出ます。一方、ヨーロッパで古くから愛されてきた伝統的なものも歴史のあってすごくいいものなんですよね。僕たちとしては、どっちに振りすきるのも良くないんじゃないかという考え方で、流行に流されず、伝統に縛られないスタイルを目指します。それはどういうことかというと、両方のいいところをもらうハイブリッドなスタイルのビール造り、ということになります」
★ビールの造り方 「水」「麦芽」「ホップ」「酵母」それに香りツケの香辛料や果汁などの「副原料」に「熟成方法」。醸造家はこれらの無限な組み合わせを選びとってビールを造ります
★クラフトビール(地ビール)とは ❶大手から独立している ❷小規模で醸造家(ブルワー)が目の届く製造を行っている ❸伝統的な製法で製造しているか、地域の特産品などを原料とした個性あるビールを製造していて地域に根付いている:全国地ビール醸造者協議会(JBA)
フレッシュなビールでありたい。
「品質(クオリティ)」と「多様性(バラエティ)」の話
ところでパシフィックはどのようなクラフトビールを皆さんに届けていきたいのでしょうか。
「最重要視するのは品質(クオリティ)です。とにかく一番うまい、フレッシュな採れたてのレタスのような状態で出荷したい。なので濾過もしないし、熱処理もしません」
どんなビールでもフレッシュな状態で消費されていくのが理想。でもそれは同時にリスクも伴うということ。賞味期限は短くなり、常に冷蔵が必須になり、ゆえに価格も上昇します。価格や流通が重要視される大手のビールの逆を歩んでいるのがパシフィックのようなクラフトビールになります。
そしてもうひとつ大事にしていることとして、
「クラフトビールの面白さは多様性(バラエティ)にあります。造り方のカテゴリーだけで100種類くらいあってそれぞれ蔵元で味が違う。なのでパシフィックもバリエーションを出すことを大事にしています」
常に定番の2種(Passific IPA / Passific Lager )をキープしつつ、月に2〜6、年間で20〜30種類ほどリリースして行く予定とのこと。どの味も常に微調整を続けていて、飲むたびに美味しくなっているというウワサは今回の取材でもあちこちで耳にしました。 規模を大きくした蔵元の品質が二の次になってしまった例を、関わってきた10年でたくさん見てきた大庭さんは、「品質」と「多様性」この2つを見失わないようにしたいと戒めるように語りました。
「茅ヶ崎はパシフィックがあるからいいよね!」って、
まちの魅力の一つになれたら
茅ヶ崎に生まれ育った大庭さん。志賀高原ビールに勤めた7年間の時期に改めて気付いたことがあると言います。
「茅ヶ崎のいいところって海が近いとかもあるけど、住んでいる人、まちで商売を営んでいる人たちが作り上げている雰囲気がいいんじゃないかと思う。チェーン店が少なく、魅力のある人や個人店が集まっていて、人同士の距離感が近い、特殊な地域なんですよね」
茅ヶ崎という地域で考えていることはありますか? という問いには、
「パシフィックが地域にできることがあるとしたら、住む人の生活に彩りを与えることなのかな。ふだんの食事にパシフィックを加えて楽んでもらうとか。僕らのビールで豊かになってくれた人たちが、また次の世代に豊かさを繋げていってくれたら嬉しい」
そして、ずっと前から思っていたと前置きをして、こんなことも。
「茅ヶ崎はクラフトビールの相性がとてもいい。ちょと良いものにお金を払える人が心地よく住んでいるところだと思う。『茅ヶ崎はコレとコレとパシィフィックがあるからいいよね! 』 って思ってもらえるような、まちの魅力の一つになれたらと思っています」
カルチャーや、遊びをビールで繋ぎ、
クラフトビールのその先へ
茅ヶ崎に生まれ育った大庭さん。志賀高原ビールに勤めた7年間の時期に改めて気付いたことがあると言います。
ビールを造り続けること、それだけでも大変なことですが、ふたりは「おいしいビールができました」で、飲んで終わりにしたくないと言います。
彼らの目標。それは、 『ビールを通してカルチャーだったり、遊びだったり、人を繋げる橋渡しになる』ということ。
キャラクターデザインをはじめ、レモングラスなどのビールの副原料やイベントなど要所に登場する人物は、既にふたりが〈どこかで繋がってきた人たち〉。この「繋がり」ということを、ふたりはとても大事にしています。
「クラフトビールは今、関わるみんなで盛り上げたいという動きがあって、同世代はもちろん、世代を超えた繋がりも強いんです。これから僕らの仲間が日本の各地で醸造所を作ったりして、業界全体の厚みもでてくるはず」
そして先のこと聞いてみると、解像度の高い話が飛び出しました。
「この先は萩園の醸造所を大きくするということではなく、萩園と1、2時間で行き来できる地方都市を検討しています。日本では原材料(麦芽、ホップ)をほぼ輸入に頼らざるをえず、同じ材料の中でのアイデア勝負に。なので、次の土地では農業に取り組み原材料からのビール作りをしたいし、今の醸造所とは違うスタイル(樽熟成、長期熟成、自然発酵など)にも挑戦していきたい。アイデアを出せるような若者も育てていきたいですね」
仲間や地域、業界や次の世代のことも考えながら自分たちの醸造所を動かす29歳のコンビ。ふたりはビールだけではなく「パシフィックブリューイングというカルチャー」の新しい流れも同時に造り出しているのだろうと思います。
とはいえまだ1年未満、パシフィックのこれからの快進撃もニヤニヤしながら眺めていきたいと思います。
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