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居心地の良い街でクラフトビールを楽しむ
「茅ヶ崎」来訪
居心地の良い街でクラフトビールを楽しむ
今、茅ヶ崎のクラフトビールシーンが活気を帯びている。
市内を中心に5つの醸造所がひしめき合い、数々のビアバー・ビアパプが軒を連ねている状況は、県内外を見てもなかなか希有ではなかろうか?
現在、国内には600を超えるビール醸造所(ブルワリー)が存在する。単純に1県に10以上のブルワリーがあることになるが、同市だけでも5か所あるのだ。筆者の私としても、近くにそれだけの選択肢があることをうらやましく思ってしまう。
特に2021年9月より醸造を開始した「Passific Brewing」の期待度は大きい。オープンからまだ半年ちょっとにもかかわらず、県内はもちろん、全国的にも注目のブルワリーとして必ずと言ってよいほど名が挙がる。筆者も初めて「Passific IPA」を飲んだ時は驚いた。ビール醸造において、開業したては味わいのチューンナップにしばしば時間を要することが多い。
例えレシピが一緒でも醸造規模や仕込み設備、土地の水との相性などを考慮し調整する必要があるからだが、同社は非常にレベルの高い味わいのビールをすでにリリースし続けている。3月1日に発売した自書「うまいビールが飲みたい!」内でも、出版間際にPassific Brewingの名を急いで追記させて頂いた。
なぜ茅ヶ崎にクラフトビールの波が来ているのか? 同地に長年店舗を構える「Beer Café HOPMAN」を訪ねた。
「店をオープンした12年前は湘南ビール(熊澤酒造)があるくらいでした。以前よりクラフトビールを求めて茅ヶ崎を訪れるお客さんも増えています。茅ヶ崎はいわゆるベットタウンでもあり、老若男女問わず住みやすい雰囲気を醸し出しているのかもしれません」
店主の「田代 康生」氏はそうにこやかに答えてくれた。「居心地の良さ」、一杯をゆっくりと楽しむクラフトビールと相性のよい土地なのかもしれない。
改めて「Passific IPA」を飲む。柑橘の皮、白桃やリンゴといった果実に例えられる香りと、程よい麦のコクとホップの苦み。ますます美味しく感じられるのは、さらに技術力が向上しているのか、茅ヶ崎の土地の力か? きっと双方だろう。クラフトビール、いわば「地ビール」はその土地で飲むからこそのペアリングもあると私は思う。食事として合わせるのは「生ハム とちおとめ リコッタチーズ セルフィーユ」。ホップの香りやフレイバーを、フレッシュな果実やチーズの酸味が優しくハグし迎えてくれる。
こうなったら一杯では止まらない。同社の「POTTO」は古典的な造り方を現代の設備で再現してみたチャレンジングな黒ビール。黒糖パンやよく煮出した麦茶のような風味、軽やかな甘味にわずかな酸も感じるようなライトな味わいで、思わず口に運んでしまう。おすすめと伺ったパスタと、とも思ったがこの子には「ショコラナッツパルフェ」がよいパートナーになってくれそうだ。歯切れのよいナッツや甘すぎないビターなスイーツに、軽快なロースト風味のビールがきれいに寄り添ってくれた。美味しいビールと料理に終始顔がにやけてしまう。
どこか居心地の良さを感じる茅ヶ崎の街。口に残るビールの余韻と、街の心地よい風もとてもよいペアリングに感じた。またこの感覚を味わいに茅ヶ崎を訪れよう。