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チガサキゴトよ、チーガ

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秋の花火、祈りを込めて

 花火大会は夏の風物詩、というわけでは必ずしもないということに、最近気づいた。

 例えば10月22日には茅ヶ崎サザン芸術花火が、11月には江ノ島花火大会の開催が予定されている。北は北海道から南は九州・沖縄まで、全国各地でも盛んに行われている。ちなみに茅ヶ崎サザン芸術花火は「サザンオールスターズの楽曲と世界最高峰の花火が、30分の1秒単位でシンクロし夜空を彩る、国内最大級の芸術花火エンタテインメント」。秋の花火大会は芸術的催し物の一つ、という意味合いもあるのかもしれない。

 そう考えたら、確かに打ち上げ花火は夏に限らなくてもいい。寒い時期の方が光の屈折が起きにくく、偏西風によってホコリやチリが飛ばされ空気が澄むそうだから、春夏より秋冬の方が花火は綺麗に見えるともいう。寒い時期の花火というのも、情緒があって、なんかよさそう。

 とはいえ、冬の乾いた風は火災の原因になりかねない。大抵は海や川のそばで打ち上げるから、火事になる心配なんてまずないのだろうが、夏に比べたらやはりリスクは否めない。実際打ち上げ花火が盛んに行われるようになった江戸時代も、花火による火災には相当神経を使っていた。江戸の大半を焼いた「明暦の大火」が発生したこともあって、一時花火は禁止されたこともあったとか。結局打ち上げ花火を楽しむなら、「火事の心配が少ない夏、隅田川で」というところに収まったようだ。

 一方隅田川の花火といえば、慰霊のためにも打ち上げられた。享保17年に大飢饉が起こり、疫病が流行り、多くの死者が出た際、時の将軍吉宗公は仏教行事の「川施餓鬼」を行い、慰霊と悪病退散を祈念して花火を打ち上げた。これが現在の隅田川花火大会につながっていったと考えると、花火大会は娯楽のためだけでなく、鎮魂や祈りの役割も果たしていたのでは、と思えてくる。

 ちなみに日本三大花火大会の一つ「長岡まつり大花火大会」も、長岡空襲で亡くなった人々の慰霊と復興の願いを込めて開催されているのだそうだ。花火大会に訪れる人々が、ひととき心の中で祈りを捧げ、大輪の花火に平和への願いを託す……みんなでお酒を飲みながらワイワイ眺めるのもいいけれど、「鎮魂」や「祈念」の花火を知っておくのも大切なことかもしれない。

 話は変わるが、個人的に打ち上げ花火には「怖い」思い出がある。小学3年生くらいの頃に読んだ『血とばらの悪魔』(高階良子)という漫画作品の中で、人間が花火とともに打ち上げられ、夜空に血肉の雨が降り注ぐというシーンがあった。狂気に取り憑かれた小説家が、自分の夢想した世界・パノラマ島を作り出すために人を欺き、殺害した末に、野望を果たせないと知るや自ら巨大な発射筒に入って散っていくという衝撃的な顛末……

 ホラーというよりは、悪魔になりきれなかった男のやるせないドラマという感じのストーリーだったが、もう40年以上も前の記憶なのに、なぜか忘れられない。打ち上げ花火を見るたび、恐れとももの悲しさともわからない感情が蘇ってくる。華やかさや美しさとは違う、これも花火が秘めた魅力なのかもしれないが。

 なお、この漫画の原作は江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』。興味のある方は、秋の夜長にぜひご一読を。

参考資料:『花火の事典』(新井充監修・東京堂出版)『ものと人間の文化史183花火』(福澤徹三著・法政大学出版局)


藤原千尋
ふじわらちひろ/1967年東京生まれ、2006年より茅ヶ崎市松が丘在住/出版社勤務を経て単行本ライター。ビジネス、教育、社会貢献、生き方老い方など幅広いジャンルの企画とライティングを手がける。

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