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かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.19 Cの辺り
池田一彦さん・美砂子さん

 茅ヶ崎だからこそ育める、シチズンシップ※のあり方とは?
子どもたちと行動して見えてきたこと

※  シチズンシップ=市民性。一般的に、「市民」を地域社会を変革する実践者と捉え、その実践者としての精神を「シチズンシップ」と呼ぶ。

市内外から様々な人が訪れる、サザンビーチを望む海辺のコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」。

人と人とのつながりから豊かな関係資本を育み、金融資本だけに頼らない、本当に幸せなあり方を探究していきたい。そんな想いを胸に「Cの辺り」を運営する池田夫妻が、今回仲間と共に「こども選挙」に取り組みました。

その活動を通して見えたものとは? 人とのつながりから生まれる関係資本って何? 「Cの辺り」が目指すものを糸口に、茅ヶ崎らしいシチズンシップについて存分に語り尽くします。

「つながりのある暮らし」を求めて

池田一彦・美砂子。2010年より茅ヶ崎在住、現在は4歳・9歳の2児と暮らす。2020年12月、プランナーの一彦さんが会社を辞めたことを機に、ライターの美砂子さんとふたりで「なにをやるか、よりも、どうあるか。」を掲げて株式会社beを設立。「関係資本主義」をテーマに活動を模索する中でサザンビーチ目の前の物件に出会い、2021年9月、コワーキング&ライブラリー「Cの辺り」をオープン。住所:中海岸3-12986-25 浜磯ビル1F東

か:Cの辺りを始めたきっかけから聞かせてください。  美:きっかけは二つあって、一つは自宅で開いていた「うみべのとしょかん」です。小学1年生だった娘の発案で、自宅の土間に200冊の本を並べて、貸し出しカードも作って。コロナ禍でも子どもたちの居場所になったらいいなと。そのときに本を介した人と人のつながりの豊かさを感じましたが、自宅だと来てくださる方は知り合いが大半。もう少しコモンズに近い空間で図書館を開いてみたいなと思っていました。

か:もう一つのきっかけはなんですか?

彦:茅ヶ崎に住み始めてしばらくして、二人目の子が生まれたとき、育休をとって家族で日本一周の旅に出たんです。キャンピングカーに乗って、「育休キャラバン」と名付けて。

か:家族で日本一周! どんな出会いがありましたか? 

彦:本当に多様な生き方に出会いました。例えば、北海道で自給自足で暮らすご家族は、食べ物も家も自分たちで作って、必要な電気も自分たちで引いていて。暮らしと仕事が一致していて、とても幸せそうで、その姿に心底感動したんです。これまでサラリーマンとして生きてきた価値観が覆されたというか。

か:仕事って本来は生きるためのものですもんね。でも、今のこの社会で、暮らしを自分たちで手作りする姿を目の当たりにするってかなり衝撃的ですよね。

彦:で、その旅から帰った後会社を辞めたんです。自給自足とまではいかないけれど、旅で感じたことを生かした生き方をしたいと思いまして。妻と会社をつくって、オフィスを探していたときに出会ったのがこの物件でした。

美:その二つの思いが合わさって、コワーキングとライブラリーを併設した「Cの辺り」を始めました。

「関係資本主義」の実験場として

か:オープンして1年余り、Cの辺りには続々と人が集まってきますね。どんな要因があると思いますか?

彦:Cの辺りは、そもそも場を作ること自体が目的ではありません。今様々な研究によって、人の幸せはお金や仕事や地位ではなく、「良き人間関係」によってもたらされることがわかりつつありますよね。しかもそれは「人脈」と呼ばれるような利用しあう関係ではなく、支援し合いお互いを生かし合う人間関係。お金にはものすごいパワーがあって、世界は金融資本主義で回っているけれど、そんな人間関係はそれに劣らないパワーを持つ資本と言えるんじゃないか。僕らはこの考え方を「関係資本主義」と名付けて、Cの辺りをその実験場にしていきたいと思っているんです。

美:メンバーになりたいと言ってくださった方には、最初にこの話を時間をかけてお伝えしています。ここではサービスの提供者と消費者ではなく、みんなが参画者として関わる。ルールもみんなでつくり、一緒に運営していく。そしてお互いに助けあう。

彦:だからCの辺りは僕らがいない日も開いているんです。お金よりも人のつながりに価値を置いて面白がって一緒に運営してくれる人も増えていて。

「こども選挙」で実感した子どもの力

か:SDGsは人権がベースにありますけど、つながりを大切にするという意味では、関係資本主義に向かうツールと言ってもいいかもしれません。今回、その関係資本主義の中で「こども選挙」というものをやってみようと、その背景にはどんなことがあったんでしょう?

美:子どもは有権者ではないけど、主権者ですよね。実際大人が教えられることも多く、子どもは機会さえあればいくらでも力を発揮できるのに、守るべき弱者でありコントロールする対象として見られている。そこに違和感を抱いていたとき、友人との対話の中でアイデアが生まれました。「子どもがまっさらな心で投票したら、誰が選ばれるんだろうね」って。

彦: Cの辺りのメンバーの中にシチズンシップ教育の専門家がいて、この話をしたら「ぜひやろう!」ということになって、資料をいただいて、公職選挙法についても教えていただいて。周りに声をかけたら、みなさん「やりたい!」と。Cの辺りのメンバーを中心に10人で実行委員会を作って、活動をスタートさせたんです。

か:みなさんボランティアですよね。

彦:はい、ありがたいことに無償で関わることに賛同してくれました。タイミングもよかったんです。今年6月に国会で子どもの社会参加が謳われた「こども基本法」が成立しましたが、こども選挙はこの法律の受け皿となる仕組みになるなと。やっていくうちに「こども選挙は社会的意義があるんだ」と使命感を帯びてきて、みんなで「よし、やり切ろう!」と。

か:100日間の旅を経て意識が変わって、場を作って動き始めて、こども選挙という形でいよいよ関係資本主義を実践に移すときがやってきたと。きっと二人の強い思いが人を呼び寄せているのでしょうね。

彦:いや、僕らの力だけじゃないです。こども選挙に限らない話ですが、やっぱり人って、意義があることや面白いことには反応するんですよね。もちろん企画段階ではめちゃめちゃ考えました。社会的意義が先行して敷居が高くならないよう、みんなが面白がって参加できる開かれたものにしようと。

美:みんなに面白がってもらうために、プロセスをオープンにすることも心がけました。こども選挙では、公募で集まった15人の「こども選挙委員」と一緒に学び、候補者への質問を考え、当日の運営まで行ったのですが、その様子はSNSやnoteの記事でも常に公開し続けたんです。新聞などに掲載されたのも大きかったです。

彦:もう一つは、やっぱり「茅ヶ崎」だと思うんですよね。茅ヶ崎の人って、なんでも面白がろうとする人が多い印象があります。実際、当日はボランティアで大人と子どもが58人も集まってくださったので、11ヶ所もの投票所を運営することができました。

美:今回関わってくださったみなさんは、選挙後も連絡を取り合っていて「またやろう」と。金融資本よりも関係資本に価値を感じてくださったのかなと思います。選挙後に寄せられた感想の中に「自分も関わりたいと思っていた」「次は関わりたい」というコメントも多数あって、今後の可能性も感じました。

政治や選挙ってモヤモヤしませんか

彦:今回こども選挙を通して、政治や選挙がいかに繊細な領域だということがつくづくわかりました。共感してくださる方もいる一方で、こども選挙に否定的な方ももちろんいて。だからこそ、参加してくれた仲間にはもう感謝しかないですね。

か:なるほど。進んで参加しようという人がいる一方で、参加に至らない、動きにくい人たちがいる。なぜ意識の差が生まれるのでしょう?

彦:例えばかつて僕もそうでしたけど、毎日忙しく働いて家に帰って寝るだけだと、なかなか地域活動へのモチベーションって育ちませんよね。

美:「選挙」というジャンルが、またハードルが高いのかもしれません。政治について気軽に話ができる場所は少ないですし、なんとなくタブー視する空気も漂っています。また、公職選挙法に「18歳未満の選挙運動禁止」というのがあるために、それに抵触するリスクを気にする方も多くて。

か:18歳未満が特定の候補者を応援したり、意見を発言してはいけない、といった法律ですね。

彦:今回僕らはめちゃくちゃ注意しながら進めたんです。実際、子どもたちはルールを伝えたらちゃんと守り通しました。選挙中は家庭内でも話さず「お母さん、選挙終わったらいっぱい話そうね」なんて親に伝えている子もいて。すごいですよね。でもその法律があるがために、教育機関では仕組みは教えるけど政治には触れない現状があります。

か:リスクを避けた忖度社会になってしまっていますよね。

彦:そんな環境で教育を受けて、いきなり18歳になって選挙に行けと言われても、戸惑うばかりですよね。

美:関わった保護者も子どもたちも、そんな法律や社会に対してモヤモヤしていました。でも、そのモヤモヤが大事な種なんですよね、きっと。一緒に活動した子どもが、選挙が終わった後に、「茅ヶ崎はただ住んでいる場所だったけど、自分の大切なものになった」と言ってくれました。今回の市長選は投票率がとても低かったのですが、子どもの力を信じてこういう機会を作っていくことで、子どもたちが有権者になる頃の茅ヶ崎には今とは違う市民意識が育っているのではないかという希望も感じています。

茅ヶ崎らしいシチズンシップを育てるために

きれいごと委員長 かわていさん

か:こども選挙も地域づくりというSGDsアクションの一つですよね。Cの辺りとして、今後どうしていきますか?

彦:こども選挙は、もともと全国に広がっていったらいいなという意図もあったんです。ロゴもそのつもりでデザインしてもらいましたし、今回の経験で得たノウハウも記事にまとめて全てオープンにしていこうと思っています。

か:茅ヶ崎からこども選挙の理念を広めていくのは、とてもいいですね。茅ヶ崎らしいと思います。

美:今回こども選挙が実現できたのは、私たちが学校でも行政でも企業でもない、なんのしがらみもない一市民だったから、という気もするんです。まだ茅ヶ崎にやってきて日が浅く、空気を読まずに活動できることがむしろ強みになったというか。

彦:そういう意味では、茅ヶ崎はとても懐が深い街だと感じます。受け入れてくれる素地があるというか。こども選挙でも、学校の先生から行政に関わる方まで、組織としては無理でも、個々人として応援してくださった方が本当にたくさんいらしたんですよ。

か:それが茅ヶ崎らしいと思えるところですよね。茅ヶ崎ならではのシチズンシップ。でも、残念ながら組織となるとそう簡単にいかなくなる。

彦:今回、連携を打診した組織の方から「前例がないからリスクが見えない」ということもよく言われたんですね。そこでいろいろなリスクパターンをシミュレーションした資料をお渡ししましたが、やはり難しいと。これって日本の多くの中間組織において言えることですよね。僕も組織にいたのでよくわかりますが、中間組織って、リスクを負うのが難しい。そういう意味では、今回の活動を通して日本社会の縮図を垣間見たという気がします。

か:リスクを感じた瞬間に、思考停止状態に陥ってしまうんでしょうね。今日本に限らず、ロシア情勢も含めて世界全体が不穏な空気に包まれていますよね。そんな状況の中で、思考停止して誰も声を上げられない社会になってしまったら、これは本当に怖いことです。そこに歯止めをかける意味でも、こども選挙のような活動はとても貴重だと思うんですよね。

美:こども選挙の実行委員やボランティアのみなさんは、みなさんリスクを冒して動いてくださいました。私自身もリスクを感じながらも行動できたのは、やっぱり関係資本があったから。一緒に活動した子どもたちにもたくさん励まされました。リスクを気にせず忖度もしない子どもたちをお手本に、これからも行動していきたいと思います。


かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


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