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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.24 入ってびっくり砂防林。その大いなる魅力とは?

(右)竹内悟門〈たけうち・のりゆき〉
造園会社で修行を積んだ後独立し、2012年株式会社竹内庭苑(茅ヶ崎市堤)を創業。2020年、湘南地域の景観と自然を保全することを目的に特定非営利活動法人湘南ランドスケープラボ設立。2022年、京都藝術大学ランドスケープデザイン通信科に入学、在学中。

サザンオールスターズも「砂まじりの茅ヶ崎〜♪」と歌っている通り、茅ヶ崎の海側には日常的に海岸から砂が飛来してきます。

かつては砂の影響で国道134号線が通行止めになったこともあったのだとか。そんな砂から私たちの暮らしを守ってくれているのが、海岸沿いに続く砂防林です。最近その一部の見通しが良くなったと気づいたチーガ取材班。調べると、仕掛け人は「湘南ランドスケープラボ(※1)」だとわかりました。

竹内悟門さんにその企みについてお話を伺います。 

砂防林って入ってもいいの?

川:竹内くんとの出会いは2019年頃かな。茅ヶ崎JC(公益社団法人茅ヶ崎青年会議所)のSDGs推進特別大使として僕に講演を依頼してくれたんですよね。

竹:当時インターネットでSDGsを検索したら川廷さんの名前が出てきたんです。茅ヶ崎に住んでいらっしゃるとわかって、JCのメンバーも盛り上がりましたね。講演の後もいろいろと教えていただきました。

川:結構厳しいことも言ったかな(笑)。

竹:(笑)。でもそれだけSDGsって奥深かったんですよ。シンプルなようで難しくて。

川:竹内くんには学びたいという気持ちを感じたからいろいろ話したんだよね。でも本業は造園業で、砂防林の管理をしているんですよね。それとは別に湘南ランドスケープラボという団体をつくって砂防林の中の清掃活動を始めたのはなぜだったのですか?

竹:川廷さんからSDGsを学んで、企業としてただお金を儲けるだけじゃなくてどうやって社会貢献するかということを考えましたが、どうしても企業ではお金や利権が絡んでしまいます。ランドスケープの原点である「景観のよい場所をつくる」ということをなかなか形にできない。じゃあそれを目的に活動するNPOをつくろうと思いました。

川:その活動場所がここ「なぎさ散歩道(※2)」なんですね。

竹:はい。湘南海岸の砂防林って海岸線に抜ける道というイメージで、入っちゃいけないと思われている方も多いんです。でも実は散策路として舗装されているところもあって、そこにはベンチも置いてあります。ただ、道に松葉が落ちてそのほかの木々もうっそうと茂っていて入りにくかったので、まずは清掃活動をしようと。

川:僕は昨年7月から「日本人と松」をテーマに全国の海岸林をはじめとした松による風景や松に関わる人の撮影取材を続けています。その中で、今の日本における松の現状を把握し解決策を提示することが日本のSDGsだと気づきました。

竹:日本人は椰子の木が並ぶハワイのような景観に憧れますが、外国の人にとって、日本の海岸線の美って松林なんですよね。いわゆる「」です。

川:ジャパニーズ・ランドスケープですよね。

竹:しかもこの湘南海岸の砂防林は距離が長いんです。鵠沼から大磯まで11キロ以上。当たり前にある松林ですが、これが実は日本のランドスケープの魅力につながっています。そのことを多くの人に知ってもらい、関心を持ってほしいなと思って活動を続けているんです。

湘南海岸ならでは! 砂の侵入を防ぐスゴい工夫

湘南海岸の砂防柵/(出典:神奈川県藤沢土木事務所HPより)


川:松は本来厳しい環境には強い植物ですよね。

竹:はい、松は痩せた土地に適していて、もともと海岸線に自然に生える植物です。なおかつ葉っぱは風を通しにくい形状ですし、木自体も風に強く乾燥にも強い。

川:日本では戦国時代に自然を荒らし、地域の海辺では元々あった自然林がなくなって砂の飛来や風の害がひどくなり、江戸時代に入って同時多発的に各藩が植林事業を始めました。その際、各地で地域住民の自然観察によって松が相応しいということがわかったと各地の古文書などに記されています。広い海岸林であれば松の単一林でも大丈夫ですが、幅が狭い湘南海岸は独自の植生を構成していますね。

竹:はい。狭い海岸林で砂を防ぐために、松だけではなく、広葉樹との多層林にしています。松は大きく育つと下の方に日が当たらず、枝が落ちて空間ができてしまう。そこから住宅街に砂が入るのを防ぐために、常緑広葉樹を植えています。現在、15種類の大小様々な樹木による多層林になっているんです。

川:湘南海岸の立地に相応しい知恵ですね。砂防林の前線には各地で海浜植物の保全も盛んです。

竹:ハマヒルガオなどの海浜植物はたくさん生えると砂の飛散を抑える役割を果たしますので、保護活動をされている団体もあります。その手前には砂防柵を2列に立て、砂を防ぐ。その手前が砂防林で、最終的には全部つながっているんです。

川:海浜植物がまず砂を抑える絨毯のようになって、それでもまだ飛んでくる砂を砂防柵や砂防林で防いで、住宅街に入ってくる砂を最小限に抑えることができていますね。砂防林が育つ前は砂の飛来で一中(茅ヶ崎市立第一中学校)が休校になったことがあったと聞きましたが、今はそのような数々の対策のおかげで海の近くでも快適に暮らせていますね。

誰もが気持ちよく散歩できる砂防林に

川:今日の話をきっかけに、茅ヶ崎らしい明るくて清潔な砂防林を考えていけたら良いですね。

竹:砂防林って入る機会もあまりないですし、関心を持っている人は少ないですよね。僕らが清掃している「なぎさ散歩道」も、以前はうっそうとしていて暗くて立ち入るのが怖いと思われている方もいました。だからまずは綺麗にすることで、ここを通りたいな、散歩したいなという気持ちになってもらいたいです。そして樹間から見える海の景色の美しさに気づいてほしいです。

川:ここをモデルエリアとして設定すると良いですね。ただ、松は他の植物との生存競争には弱いので、砂防林の保全には人の手が必要ということを知ってほしいです。

竹:そうですね、多層林では落ち葉によって土が栄養分豊かになり、松が弱くなってしまうことも事実です。掃除して人が立ち入れるようになったら、次は松の根元から松葉を掻き出す保全をしていきたいです。昨年のクリスマス・イヴには根元の松葉掻きをして、そこをライトアップしました。松にとって理想的な根元の状態をイルミネーションで楽しんでいただけたと思います。

川:九州のある松原では小さなLED電球を多用したイベントを実施して行政も広報していました。ぜひ参考にしてほしいです。竹内くんは、本来の松の機能を活かしたランドスケープデザインを実践しようとしているので、この先が楽しみですね。毎月の清掃活動は誰でも参加できるとのことですが、松葉を掻くための熊手はどうしているんですか?

竹:自分たちで持参しています。

川:熊手を砂防林の中に置いてみてはどうでしょう?香川県の津田の松原には、いろいろなところに熊手が置いてあって、「私を5分使ってください」ってメッセージが書いてあるんです。88歳の方のアイデアなのですが、私も撮影の合間にその熊手を使って松葉掻きをしました。湘南海岸でもサイクリングロードには砂山とんぼ(※3)がトンボを置いて人々にアクションを促していますが、遊歩道も同じようになったら素敵ですね。

竹:それは面白いですね。そうやって関心を持ってもらって、この遊歩道の気持ちよさと美しい景色を体感していただけたら嬉しいです!

昨年行われた「なぎさ遊歩道」のライトアップ

※1 湘南ランドスケープラボ

茅ヶ崎を中心に、湘南地域の景観と自然を保全するNPO法人。竹内さんが理事長となり、2020年に設立。美しい「湘南の松原」の自然を保全し、後世に残せる景観をつくるため、清掃を中心とした保全活動を行っている。

※2  なぎさ散歩道

湘南海岸の防砂林の中に整備された合計4箇所の散策路。茅ヶ崎海岸地区の「なぎさ散歩道」は一中通りとラチエン通りの間に位置しており、各所にベンチも設置されている。そのほか、辻堂海岸地区、柳島地区、平塚海岸地区にも同様の散策路がある。

※3    砂山とんぼ

海沿いのサイクリングロードに溜まった砂を楽しみながら取り除くプロジェクト。趣旨に賛同した仲間で「チーム砂山とんぼ」を結成。砂を掃くための「トンボ」を自作し、海岸沿いに設置するほか、トンボ作りワークショップや清掃イベントも開催している。

撮影:奥田正治 ライター:池田美砂子 


“きれいごと”とはみんなが本当はこうした方が良いと思っている「きれいごと」。そのままに行動するとこれまでは揶揄されましたが、これからは未来世代のための行動を褒め称える社会をつくれると考え“きれいごと委員長”の川廷昌弘さんと共に創刊時から『チガサキのたくらみごと』として連載に取り組んでいます。

かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


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