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PassificBrewingが今見ているもの、何ですか?
PepownをつくったPassific Brewingの大庭さん、山本さんに聞きました
弊誌16号では「パシフィックブリューイングというカルチャー」と題し、クラフトビールの醸造所として誕生間もないパシフィックを特集し、大きな反響をいただきました。
そのパシフィックが、4月に新たに飲食店をオープン! できたてのピーポンを訪ねました。前回の取材から2年、その間のあゆみとこれからの計画を聞いちゃいます。
ピーポンのオープンおめでとうございます。2年前の取材では『茅ヶ崎はパシィフィックがあるからいいよね!って思ってもらえるような、町の魅力の一つになれたら」 というようなお話がありました。醸造所であるパシフィックが店を持つということと、町の魅力の一つになることについて聞かせてください。
P まず「町」と考えた時に、頭の中にはキーワードとして「住まう人」、「商う人」、「訪れる人」、というのがあったんです。今住んでる人と、そこで商売してる人と、それをきっかけにやって来る人。その人たちが入り混じることで、町って形づくられてるんじゃないかなって。
そう考えると、町の人たちがパシフィックのクラフトビールを気軽に楽しんでくれていたり、友人や同業者が全国からやって来てくれることも、この町に影響を与えているのかもと思うようになりました。
小さい会社だし、大したことをしているわけではないのですが、意外と自分たちがやっていることって、少しずつ町が変化していく要因になってきているのかもしれないなと感じています。
編 この度、飲食店を持つことに関しては、どんな意識で臨まれているのでしょう。
P ピーポンの店名を決める際に、自分たちの立ち位置やコンセプトを改めてしっかり考えてみたんです。ブルワリーは工場という拠点があって、そこから商品を外に届けているので「内から外」。だけど店は人が集まってきてくれるから「外から内」で、ちょうど真逆だなと思って。
編 真逆の性質に気付いたんですね。
P それはずっと町に対して感じていたこととリンクしていて。この町でもっとビールを 楽しんでもらえたら、住んでる人たちはちょっと得するんじゃないかなと思って。
繰り返しになるんですけど、今住んでる人もそうだし、商売してる人、この町に訪ねて来る人もそう。いろんな店があったり、いろんな面白い人がいたり、いろんな人が来ることで、茅ヶ崎という町が楽しくなっていく。
これからはこの町を楽しむだけじゃなくて、自分たちがそういう町をつくる側になるのもいいかもしれないと考えています。そしてこの町がどんどん面白くなっていけばいいなと。
編 なぜその考えに至ったのでしょう?
P そもそも「町は人」なんだ、と気が付いた時に、じゃあピーポンも人が集まったら、「小さな町」みたいなものじゃないかな、って思ったんです。
僕たちがピーポンでできることは、いい酒を提供することです。店というものを考えた時に、訪れてくれた人が楽しんでくれて「小さな町」になったらそれが「町が良くなること」に繋っていくんだろうと思っています。
ここからは今のビール造りの話を聞かせてください。ビール造りに変化はありますか。
P 去年の春にヨーロッパに行ったんです。各地で飲んだ伝統的なビールはとてもおいしく、またすごくなシンプルな造りをしている印象でした。
日本に帰ってきてから、ヨーロッパのシンプルなイメージをそのまま、新しいテクニックなどを用いずに造ってみたところ、とても新鮮な味わいだったんです。
それまでは味の要素を少しずつ、足し算をするような造り方をしてたんですけど、逆に少しずつ「引き算」みたいことに挑戦している感じ。味の要素を減らしていくことで、確実に出てくるものがあって。削ぎ落とされていけばいくほど鮮明になるイメージです。醤油も味噌も使わないで塩だけで勝負する、みたいな。
この「引き算」を意識したからこそ気づけたことがたくさんあって、 この1年、自分でもビールの造り方が変わったと思います。それは他の種類のビール造りにも少なからず影響しています。
もちろんいろんな材料を組み合わせてプラスしていく面白さもあるので、 そこは並行してやりながら好きなものを造っている感じです。
同じビールでもレシピを微調整する話をされていましたが、今も調整は続いているのでしょうか。
P レシピは溜まっていって、 醸造の回数を重ねることで、ブレは少なくなっています。好みや気分も変わるので、小さな調整を続けているのですが、完成度という意味では全体的に高くなってきました。やっぱり本当に1%、2%の修正みたいなのをずっと繰り返しているので。
これから少し先の話を聞かせてください。今見えているものはありますか。
P 大きな目標は、もう一つ長野に醸造所を作りたいというのがあります。
編 2年前にも言われてました。叶いそうですか。
P 去年の春に女性のブリュワーが、ひとり入りました。まだアシスタントですが、拠点が2カ所になった時には、二人で行ったり来たりできるようになるはずです。
編 順調に準備が進んでいるんですね。
P ピーポンを作ったのも、当然こんな店が欲しかったのはあるんですけど、次また工事をやろうと思うと、結構大きいお金がかかりそうなので、会社としてもうちょっと事業を大きくしておきたいというのがあります。工場を作りたい理由は、ただ生産量を増やすだけではなく今の環境では出来ないもの作りに挑戦したいというのが一番なんです。例えば、木樽を使って熟成させるものや、自然発酵などにも挑戦してみたいし、あと農業も手がけたいと思っています。
会社の成長を含めてパシフィックは本当に最初からブレずにここまできているんですね。ちなみに現実的に長野の話は、どのくらいまで進んでいるのでしょうか。
P 長野に向けては少しずつ準備をすすめている段階で、事業基盤の強化(ピーポン)、先ほど出ましたがブリュワー含む人材育成、あと農業、長野以外の地方訪問などです。
来年あたりには実際に場所を探し始めようかと思っていて、良い場所が見つかったら、実際に計画を進めていこうと思っています。
いきなり長野へ行ってもすぐ麦やホップが育てられるわけではないので、その一歩という意味で、最近小さな畑を借りてハーブの栽培を始めました。また地方は働き方や地域とのつながり方などの性質が違うので、長野以外の地方にも積極的に行ったりして勉強中です。
編 本当に長野と関わろうとしていることが伝わってきました。しかも既に畑を借りているんですね。
最後に業界的な話や、展望などを聞かせてもらえませんか。
P 僕たちよりも下の世代が増えて盛り上がってきてるのは良いことで、でもその子達に負けないように、いろいろなことに挑戦したいという思いです。そういう人たちに負けないように、何をしなきゃいけないのかなみたいなことはすごく考えますね。
長野の計画が、今思い描いているようにきちんとできたら、たぶん簡単には真似できない領域なので自信になるだろうと思います。危機感も持ちつつ、誰も追いつけないように走り続けてるって感じなのかもしれません。ちゃんと10年分のリードを保ちながらやれたらいいなって思っています。
編 今日はお忙しい中ありがとうございました。
カメラ:momocamera / ライター:小嶋あずさ