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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.06 4Hearts(フォーハーツ)那須かおりさん

聴こえないけど話せる。
そんな私だからこそ伝えられることがある。
誰もが自分自身の“ことば”で
感情を表現できる社会を目指して。

那須かおり
かわていさん(左)、那須かおりさん(右)

“きれいごと”をを堂々と語り行動する人々にご登場いただく「チガサキのたくらみごと」。“きれいごと委員長”のかわていさんとともに活動の本質を探り、まちの未来を紐解いていきます。

第6回となる今回のゲストは、「4Hearts」の代表理事・那須かおりさん。生まれつき重度聴覚障害を持つご自身の経験を活かし、聴こえる・聴こえないを越え、あらゆる人が自分自身の”ことば“で感情を表現することをサポートする活動を始めました。

対談の途中、かわていさんは「世の中の人にとって那須さんは必要」と断言しました。那須さんのあり方、生き様、そして魂から発せられるような言葉の一つひとつを、最後までじっくり感じ取ってみてください。

私はずっと、狭間を歩いてきた

かわていさん

か:こんにちは。こうやってはっきりと抑揚をつけてお話するとわかりやすいですか?

那:はい、そうですね。

か:講演の練習だと思って腹の底から声を出して話しますね。この対談は、僕が那須さんに会いたいと言って実現しました。僕はこれまで聴覚障害の知人がいなかったので、那須さんに僕の言葉がどう聴こえているかという実感もないんです。まずは、これまでの経験を教えていただけますか?那:かわていさん、ご出身は芦屋ですよね?私はすぐ近くの神戸・東灘です。

か:あらら、そうですか! 近いですね。

那:30歳まで神戸にいたんですが、私は生まれつき耳が聴こえなくて。でもそれがわかったのは、4歳のときだったんです。

か:それはおしゃべりができたからですか?

那:いえ、野生児みたいに叫ぶことしかできなくて。でも勘が良かったので、「音が聴こえたら跳び箱から飛び降りて」というチェックのとき、ポンって降りちゃったみたいで。空気の振動を感じていたんじゃないかと思います。

か:4歳で聴こえないとわかってからは?

那:手話禁止の時代だったので、言語訓練施設で口話教育(※欄外)を受けました。ものに名前があることも知らず、「けいこうとう」とか、家中のものに名前を貼って、ふすまにも50音の表を貼って、毎晩訓練。それで2年でほぼ話せるようになりました。

か:こうやって話していても、正直、障害を感じないです。

那:ありがとうございます。でもだからこそ、自分も自分の障害がわからないんです。小中学校は一般の学校に行ったんですけど、自分の困りごとをまわりに伝えられなくて。

か:なるほど、そういうことになるんですね。

那:高校でろう学校に行ったら、今度はみんな手話をやっていて。だから聴こえる人の世界にも入れなかったし、聴こえない人の世界にも入れなかった。私はずっと、狭間を歩いてきたんです。

か:狭間。普通に考えると落ち込むし逃げたくなっちゃうけど、那須さんはそこで踏ん張ってきたんですね。

“生かされた”という実感とともに

かわていさん

那:中学生のときに阪神淡路大震災を経験して、友達も叔父も亡くなって。それが自分の中の死生観が変わる大きなきっかけになりました。

か:僕もタンスの下敷きになりました。

那:私もタンスに挟まれました。引っ張り出してもらったんです。

か: 死生観という意味では、僕は「生かされたんだ」という実感があったので、この命をどう使うか、と考えるようになりましたね。本当に間一髪だったから。

那:私も間一髪。でも助かったのは、なにか意味があるんでしょうね。私はずっと反骨精神でがんばってきました。大学院生でうつ病になったときも、「1年で復学する」って決めてスキューバダイビングを始めて治したんですよね。

か:すごいね、やっぱり強いよね。

那:でも就職がうまくいかなくて。耳が聴こえないとアルバイトも難しい。腐ってそのことをブログに書いたら、アリゾナの日本料理店のオーナーさんから「渡航費だけでいいからおいで」ってメールが届いて。

か:行っちゃったんですか!? やるなぁ。

那:祖母の介護のために3ヶ月で戻ってきましたが、グランドキャニオンとか広い世界を見て回ったことは大きかったです。その後は保険会社の障害者雇用で働いたんですが、仕事の幅はどうしても狭いですね。30歳で神奈川に来てからも、大企業で経理や総務の仕事をしていました。今はそれも辞めて、「4Hearts」の活動に専念しています。

狭間は武器。突き抜けるしかない!

那須かおり

か:「4Hearts」は立ち上げたばかりだと思いますが、どんなメンバーでどんな活動をしていく予定ですか?

那:メンバーは私と手話通訳士、手話を勉強中の方の3人です。まずは『みみとこころのポータルサイト』で情報発信を始めました。私は聴覚障害者に必要なのは、「心理と言語化」だと思っていて。

か:心理と言語化、どういうことですか?

那:聴こえる子は乳幼児期に母親などから“言葉のシャワー”を浴びて母語としての日本語を獲得しますが、聴こえない子は視覚言語以外に自然に母語を獲得することができません。たとえ発声練習をして日本語を使えるようになっても、感情の部分が置いてけぼりになってしまう。「気持ちを共有する安心感をベースにした言語獲得」ができていないと、感情が結びつかず、心をうまく表現できないんです。

か:気持ちを表現できないのは、ストレスですよね。

那:私も小さい頃は困りごとが言えなくて、ただ叫んでいました。伝える力があれば、周囲の人にももっと理解してもらえたはず。だからその感情の表現をサポートしていきたいんです。手話や日本語の一歩手前、自分自身の ”ことば“で表現する力。それは聴覚障害者だけじゃなくてすべての人にとって必要なこと。狭間にいる私だからこそ、伝えられることはあると思うのですが。

か:たくさんありますよ。こうやって話して僕自身も気づきをたくさんもらっています。SDGsでは、「差別や偏見を乗り越えて一人ひとりが自分の可能性を発揮できる社会をつくっていこう」と言っているのですが、社会的な痛みを知らないと言葉が上滑りしちゃうことがあります。でも那須さんは狭間を歩いてきたし、いわゆる ”社会的弱者“として社会を見てきた。那須さんと話すと、聴覚障害の方だけじゃなく心に悩みを抱えているすべての人が勇気をもらえる。世の中の人にとって那須さんは必要です。

那:聴こえない人だけではできることに限界があるし、聴こえる人と聴こえない人を分けるのもおかしな話。面白いことは一緒にやって、そこから生まれることを楽しんでいたら、いつの間にかみんなで遠いところに行っていた、というのを目指したいです。

か:いいですね。社会課題も、気候変動が起こるから難民が増えて貧困飢餓になって…と連鎖しているので、全体を見ないと本質的な解決策は見出だせない。だから、コミュニティとコミュニティをどうつないでいくか。那須さんは狭間にいることを武器に、さまざまな課題を多くの人と共有する橋渡し役になっていくといいと思います。そのためには聴こえる人・聴こえない人関係なく、仲間が絶対必要です。

那:仲間がいれば、続けていけそうですしね。

か:続けざるを得なくなります(笑)。それは問題に気づいちゃった人の責任なんです。那須さんは、やるしかないんですよ。

那:もう、突き抜けるしかないですね(笑)。まずは茅ヶ崎で聴覚障害の方や高齢で耳が遠くなった方のサポートから始めようと思いますが、社会に働きかけられるくらいのインパクトのある活動にしたいので、前に進もうと思います!


4Hearts
聴覚障害者が抱えるさまざまな社会問題を多くの人と共有し、地域や社会とともに解決することを目指す一般社団法人。2020年5月設立。『みみとこころのポータルサイト』を立ち上げ、聴覚障害当事者の視点で情報を発信している。個人・法人からの寄付やサイトで執筆する記者を随時募集中。 https://4hearts.net/

初のイベント開催決定! 10月11日(日)13時〜

チガラボにて「みみここカフェ」を開催。詳細は上記Webにて。


口話教育
相手の話し言葉を読み取り、その口形を真似して声を出すコミュニケーション教育。1880年、ろう教育国際会議で「口話法が手話より優れている」と決議されて以来、手話を使わず口話教育で健聴者に近づくことが目指されました。日本では2009年にろう学校でのコミュニケーション手段として手話が認められ、現在では口話や手話・指文字など、すべての方法を活かすトータルコミュニケーションの考え方が広まっています。


かわていさん初の著書が発売されました!

かわていさん

我らが“きれいごと委員長”による、初のSDGs本。「わかりやすい」と評判の講演がついに書籍化されました。本書に掲載されている具体的な実例や実践は、SDGsを“自分ごと”化し、2030年までの「行動の10年」を生きるヒントになるはず。

未来をつくる道具
わたしたちのSDGs1,780円 ナツメ社

 購入はこちら

川廷昌弘
1,780円 ナツメ社


かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

“きれいごと”とは
みんなが本当はこうした方が良いと思っている「きれいごと」。そのままに行動するとこれまでは揶揄されましたが、これからは未来世代のための行動を褒め称える社会をつくっていきましょう! 


かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。

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