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チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合う
チガサキのたくらみごと

vol.11 茅ヶ崎館
森浩章さん

自分ができることを、自分で考えて行動する。
まちの魅力を守り、磨き上げるために
“へそ曲がり”の僕が、続けていること。

 今、茅ヶ崎の景色が変わりつつあります。大きな邸宅が次々にマンションへと姿を変える中、明治32年から続く老舗旅館「茅ヶ崎館」の5代目当主・森浩章さんは、まちの伝統文化を守り継ごうと自らの意志でさまざまな行動を起こしています。

「茅ヶ崎には“きれいごと”で勝負する方々がたくさんいて、それがまちの魅力になっている」と語るかわていさんとともに、まちの未来を紐解く本連載。

今回は、 ”人生そのものがたくらみごと“とも言える森さんのあり方に迫ります。

砂丘の上の一軒宿、
電話番号は3番。


森浩章(もり・ひろあき):1974年生まれ。高校卒業後専門学校で自動車デザインを学び、22歳の時に「茅ヶ崎館」の継承を決意。ワーナー・マイカルシネマズで販売促進と管理に携わったのち、5代目当主に。「茅ヶ崎映画祭」の実行委員長や「湘南邸園文化祭」の副会長を務めるなど、地域の文化意識向上の活動を積極的に立ち上げている。


か:茅ヶ崎館は映画ファン憧れの宿で、今もたくさんの方が泊まりに来られると思いますが、できたのは明治時代なんですよね?

森:明治32年です。当時はまだ茅ヶ崎駅の南側には何もなくて、”砂丘の上の一軒宿“といった様相でした。電話線も引かれていなかったので、後に割り当てられた番号は、郵便局が1番、南湖院が2番、茅ヶ崎館が3番だったんです。

か:それはすごい! 茅ヶ崎文化の発祥ですね。そんな伝統のある旅館を20代で継承されたのはなぜだったのでしょう。

森:ここで生まれ育って、海外にも出かけたりする中で、だんだんこの建物や景観の良さがわかってきたんです。茅ヶ崎らしい個性的な場所だな、と。でもとにかく古い建物なので、維持するのは大変で。一般住宅地にあるので税金も高額ですし、感染拡大でお客さんも半減していますし、「もうやめれば?」って言う人もいます。僕が継がなかったら、なくなっている場所なんです。

か:茅ヶ崎市民としては、なくなったら困ります。

森:こういう場所を大事に思うかどうかは、人それぞれですよね。そういった意識を変えるには、言葉で伝えるのではなく、まずは自分が行動してまわりから認めてもらうこと。だから僕は、2009年には登録有形文化財の申請をしましたし、「茅ヶ崎映画祭」も10年続けてきました。毎年、文化の日に小津安二郎監督作品の上映会もしていますが、映画好きな方が国内からも海外からも来てくださいますね。

か:やはり小津監督の存在は大きいんですね。

森:大きいです。茅ヶ崎を舞台にしている映画もありますし、実は当時の茅ヶ崎館の家族ををモデルにしている作品もあるんです。小津監督ならではの撮影手法も、世界から認められている。僕は22歳のときに両親から小津監督の話を聞いて、「映画ゆかりの宿」としてこの仕事をつないでいこうと決意したんです。

変わりゆくまちのなかでも諦めない
時間をかけて、ちょっとずつ。

か:いま、ここのすぐ近くにあった邸宅が取り壊しになって大きなマンションの建設が進んでいますね。茅ヶ崎の佇まいがどんどん変わっているのを感じます。

森:あれはショックでしたね…。

か:ああいった景観が茅ヶ崎の良さを引き立てていて市民の拠り所でもあったと思うんですが、開発によって次の世代がそれを感じることができなくなってしまう。そんな中でここが残っていることの意味はますます大きくなってくるだろうと思います。茅ヶ崎館の場合は、名前からして茅ヶ崎の歴史文化を背負ってしまっている印象ですが…。

森:他の名前だったら、もう少し気楽だったかもしれませんね(笑)。もともと中海岸は「茅ヶ崎村」と呼ばれていて、うちの初代は村長だったんです。船乗りとして財を成して、函館や横浜にも家がありましたし、旅館業にも憧れがあったのでしょう。それに比べたら僕がやっていることは大したことない。国内外にも応援してくれる仲間もいるので、諦めずいろいろな手法でつないでいきたいと思っています。僕は”へそ曲がり“なんです(笑)。

か:いい意味の”へそ曲がり“ですね、心底応援したいです。高砂緑地のようにまちに守られている景観もありますが、本来景観というのは大なり小なり個人の資産でつくられていくものだと思います。そういう暮らしに近いところこそ地域の歴史や伝統を伝えてくれるので、実はそれが一番大事で。SDGsも、「みんなでひとつになって2030年に貧困も環境も社会問題になっていない社会を目指そうよ」、「そのための手法は問わないよ」と呼びかけていますが、企業も市民も主体的にならないと達成できないということなんです。

森:自分が問題を解決する主人公にならないといけないということですよね。日本には魅力的な場所がたくさんあるのに、そこに対する支援がなく、文化を保てるような政策になっていません。茅ヶ崎市も財政難と言われていますが、まちの魅力を磨き上げれば、ライフスタイルに惹かれて移住者も集まって来ると思います。

か:磨き上げる、いいですね。

森:たとえば、茅ヶ崎は海があってこそのまちだと思いますが、残念ながらその景観の整備は進んでいません。ハワイに魅力的な道路と海と街の景観の関係性は、茅ヶ崎でもつくろうと思えばつくれる。そこは他力本願ではなくみんなが自分ごとだと思って行動しないといけません。長い時間はかかりますが、僕は50年後、100年後のことを考えて仕事をしています。茅ヶ崎館がなくなっちゃったら茅ヶ崎の開発はものすごく加速するでしょうしね。僕は諦めない性格なので。

か:林業で3世代先のことを考えて木を植えるように、長い歴史を背負って守っていくためには、長期目線と短期目線を同時に持ってコツコツと諦め悪く続けていくしかないんでしょうね。

森:そうですね。でも結局、自分に返ってくるんです。映画祭も10年やり続けていると、ほんのちょっとずつですが、まわりの意識が変わって来ているのを感じます。茅ヶ崎から成功事例をつくれれば、と思っていますよ。

コーヒー飲みながら
ワーケーション。
茅ヶ崎館を、もっと身近に。

か:ライフスタイルも多様化している中で、旅館業という経営形態も新しい糸口を見つけた人が勝ち残っていくのだろうと思います。たとえばこの庭園を眺めながらワーケーションって最高だな、なんて考えちゃいますが。

森:そうですね、そういった問い合わせも来ていますし、今年のゴールデンウィークからは昼間の時間を使って珈琲サロンとしての営業も始めました。

か:ここでコーヒーをいただきながら仕事ができるなんて、贅沢ですよね。

森:そういう近代的なこともうまく取り入れながら、古い佇まいも守り継いでいきたい。とにかくお金がかかるので、ほとんど自分で直しているような状態で、この後も屋根に登って修繕作業をするんですけど(笑)。

か:庭仕事もされているんですよね。

森:はい、毎年花が咲くのが早くなって、ここ20年の気候変動も感じながら手入れをしています。良さを保つためにはやっぱり努力が必要なので、頭を使って考えて、まず自分でやってみる。良いところをちゃんと磨いてお客さんに楽しんでもらえるようになれば、その場所は本当に潤うと思います。

か:そうやって、できることはご自分で実践されている森さんのあり方は、きっと周りの人々の心にも響くと思います。みんなが関わっていかないとここは守れない。でもその関わり方は、自分で考える。コーヒーを飲みに来ることでも、庭仕事の手伝いでもいいので、「茅ヶ崎の伝統文化を守りたい」という思いが「茅ヶ崎館のお手伝い」という具体的な行動になっていくといいな、と感じました。

森:「有形文化財」は敷居が高いと感じるかもしれませんが、壊れたら直せばいいですし、汚れたら掃除すればいいんです。ぜひ気兼ねなく足を運んでいただきたいですね。


明治32年(1899年)創業の老舗日本旅館。国指定の登録有形文化財。映画監督・小津安二郎氏が数々の名作を生み出したゆかりの宿として知られ、国内外から数多くの映画ファンが訪れる。近年は「茅ヶ崎映画祭」の会場など。           



スペシャルティ珈琲が楽しめる珈琲サロン
 ( 水〜日 11:00〜16:00 )


茅ヶ崎館
中海岸3-8-5  ☎0467-82-2003
http://chigasakikan.co.jp


かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

川廷昌弘(かわてい・まさひろ)。「きれいごとで勝負!」をキーワードに世界を股にかけて活動する茅ヶ崎人。博報堂DYホールディングス グループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長、環境省SDGsステークホルダーズ・ミーティング構成員、神奈川県非常勤顧問。2019年12月より「茅ヶ崎市SDGs推進アドバイザー」に就任し、茅ヶ崎らしいSDGs推進をたくらみ中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。

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