知らなかった茅ヶ崎をもっと知り、もっと好きになり、
もっと楽しめる!茅ヶ崎を知り尽くす情報サイト

チガサキゴトよ、チーガ

  • facebook
  • instagram
  • twitter

チガサキゴトよ、チーガ

OTHER

NEW

映画作家 安田ちひろの湘南 つれづれ 日誌

「なぜ映画を撮るのか」〈最終回〉

 映画監督は損な役回りである。

 傍からみると華やかな役割に見えるが、実際は違う。毎日深夜遅くまで鬱になりそうなくらいシナリオを考えたり、膨大な量の絵コンテをちまちま書き、各部署のスタッフを口説き集め、ロケ場所の許可申請やキャスト探し、雨が降れば大人数のスケジュールを立て直し、スタッフの誰かが問題が起こしたら私の責任になる。昔、神社で撮影した時に、カメラマンが照明からボヤを起こしたことがあり、カメラマンの代わりに私1人で謝りに行ったことがある。

 こんなに大変な思いで、整えた現場であるにも関わらず、なぜか現場で褒められているのはここ数日の準備しか参加していないカメラマンだったりする。役者や関係者は撮られた映像を見て、「すごい」「さすが」などカメラマンを褒め称える。作品が完成したあと、肩の荷は下りるが、自分の心を丸出しにした作品が大勢の人に見られる事が恥ずかしくて堪らない。

 なぜこんな大変な思いをして、映画を撮っているのか。理由の一つは、撮った作品は誰かに影響を与えているということ。島のお盆を描いた「西ノ島の盆」はネットで視聴した女性が島に興味を持ち移住を決断した。「あの花の唄」は主演の子が残念ながら亡くなってしまったのだが、彼女の唯一の主演作品になり、お葬式で音楽を流してもらっていた。

 私の映画を見て、感動して感想を言いに来てくれた人は何人もいる。そうやって苦労して作った作品は、目に見えて褒められる訳でもないのだけれど、人知れず誰かの人生に影響を与えていると知った。それってすごく幸せな奇跡みたいだ。

 大変な思いをして映画を作り終えたあと、なぜかまた撮りたいと思う。小さくても、また誰かの心に触れる作品を撮り続けたいと思う。


安田ちひろ

安田ちひろ Chihiro Yasuda
1987年生まれ、茅ヶ崎在住。。大学在学時に自主映画制作を始める。関西TVドラマ「大阪環状線」第8話脚本など。湘南にて映画制作コミュニティ『スタジオMalua』を立ち上げる。プロアマ7名の作家による江ノ電1駅ごとの短編オムニバス映画「江ノ島シネマ」企画・プロデュース。

RELATED ARTICLES関連記事