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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.13 茅ヶ崎イシラス
石田智さん

茅ヶ崎の人に、茅ヶ崎の魚を食べてほしい。
市場で働いてきた僕ができること。

 かつて茅ヶ崎市南湖にあった「茅ヶ崎丸大魚市場」が閉鎖されてから3年半。茅ヶ崎漁港で水揚げされた魚介類は、近隣の市場に運ばれるようになりました。

 そんな中、茅ヶ崎丸大魚市場で働いていた石田智さんは、「茅ヶ崎の魚を茅ヶ崎で循環させたい」と、漁港から徒歩2分の場所に「茅ヶ崎イシラス」を開店。しらすをはじめとした茅ヶ崎産魚介類の加工・販売を行なっています。

「自然の恵みは、ちゃんと食べられて初めて価値になる」と語る石田さん。きれいごと委員長・かわていさんの想いと重なり合い、熱を帯びた対談となりました。

おいしい釜揚げしらすの秘訣は、
鮮度と蒸気釜にあり!

日中は忙しい石田さん、対談は閉店後の加工場をお借りして実施しました。
石田さんの背後に見えるのが、しらすを茹でる蒸気釜。

か:本当に漁港の目の前のお店ですね。初めてお邪魔しましたが、ここでしらすを茹でているんですよね。

石:最高の釜揚げしらすをつくるために、最新の蒸気釜(※欄外)にたっぷりのお湯を沸かして少量ずつ短時間で茹で上げています。蒸気って機関車も動かすじゃないですか。すごく力があるんですよ。

か:おいしい釜揚げしらすの秘訣は、この釜にあるんですね。

石:この蒸気釜なら、たった1分で茹でられます。しらす一つひとつがつるっとしていて、お客さんにも「おいしい」って言ってもらえるんですよ。

か:おなかが減ってきました…(笑)。ぜひ、アツアツを買って帰りたいです。

石:茹でたてはもちろんおいしいですよ。でも温かいままでは賞味期限が短くなってしまうので、一度常温にして10度以下で保存して、美味しさが一番長持ちするように加工して販売しているんです。

か:なるほど。それは知らなかったです。

石:でも、何よりも大事なのはしらすの鮮度です。小さい魚なので、船の上ですぐ氷に入れてどれだけ鮮度良く保てるか。うちにしらすを持ってきてくれる漁師さんたちは、その点文句の付け所がないですね。

か:漁港からすぐのこの場所だからこそ、最高の鮮度を保てるのでしょうね。まさに漁師さんとの共同作業ですね。

石:漁師さんや、買い取ってくれる魚屋さんの協力がなければやっていけません。まわりのみなさんには感謝しています。

茅ヶ崎の魚が他の市場に運ばれる。
悔しさをバネに

か:石田さんはもともと魚市場で働かれていたんですよね。平塚と茅ヶ崎の魚市場が合併したのは、やはり漁獲量が減少したからでしょうか?

石:年々魚がとれなくなっていますからね。

か:気候変動の影響も感じますか?

石:資源の枯渇や海の汚染も原因になっています。漁師さんも減っていますし、限られた茅ヶ崎の魚も、市場のある平塚や小田原に運ばれてしまう。そうなった今、地元生まれの僕に何ができるか。茅ヶ崎の魅力といえば、海、サザンなので、水産部門をなんとか盛り上げられないか、と思ったんです。

か:それで起業されたんですね。

石田智さん 「茅ヶ崎イシラス」代表。茅ヶ崎生まれ、茅ヶ崎育ち。2018年
4月に閉鎖となった茅ヶ崎唯一の魚市場「茅ヶ崎丸大魚市場」で26年間働いた後、「茅ヶ崎イシラス」を起業。地元の漁師や鮮魚店と協働の中で茅ヶ崎の海の恵みを茅ヶ崎で循環させようと、日々奔走している。

石:茅ヶ崎の魚が他の魚市場に運ばれるのが悔しかったんです。「僕がやってきたことが無になる」という気持ちもあって、今までやっていた卸売としらす屋をはじめました。釜揚げしらすは、魚市場でも僕の提案でつくっていたので、その技術を受け継いで。漁師さんが「石田がやるなら卸してやる」って言ってくれたときはうれしかったですね。今は4軒の漁師さんとお付き合いして、しらす以外の魚も引き受けています。

か:茅ヶ崎市民としても、茅ヶ崎で水揚げされた新鮮な魚が味わえるのはうれしいです。

石:茅ヶ崎の漁業の問題点は、漁獲が安定しないことなんです。しらす漁は比較的安定していますが、それ以外は不安定なので鮮魚店や飲食店もあてにできず、他の市場で手配するようになってしまいます。自然相手だから茅ヶ崎で大漁のときもありますが、お金に変えてあげるのが難しい。せっかくとれた自然の恵みが無駄になってしまうんですよね。

か:お金に変えるのが難しい魚も引き受けて、どうするんですか?

石:魚卓(東海岸北の鮮魚店)のたくちゃん(店主:浅見卓也さん)が「茅ヶ崎のものなら」って買ってくれます。他の魚屋さんとも協力して、できるだけ無駄にしないようにやれることはやっていますよ。

『生業の海』としての価値をつないでいくために。

か:石田さんにはぜひ、そのはつらつとした元気を維持して活躍してほしいです。これから思い描いていることはありますか?

石:ひとつは、漁師になりたいです。自分の会社に漁師部をつくるイメージなんですが、あととりのいない漁師さんを継いでいきたいです。そうすると自分の事業にとっても付加価値が生まれますよね。ただ僕は船酔いがひどいので、難しそうですが…(苦笑)。

か:あらら、それは意外(笑)。でもそうやってつないでいくことは大事ですね。

石:それともうひとつ、これは夢ですけど、もう一度魚市場を復活させたいです。港のすぐ近くで、一般の人も魚屋さんも飲食店も魚を買えて、加工しているところもあって、飯も食べられてお土産も買えるような。アツアツの釜揚げしらすもご飯に乗っけて食べてもらえます。

か:それは最高ですね。僕はリモートワークで平日の昼間に茅ヶ崎にいるようになったんですが、ごはん屋さんをほとんど知らなかったんです。地元の人が親しめる魚市場があったらうれしいですね。

石:港の近くなら、受けた魚をその場で適正な処理をして、付加価値をつけて売りに出せます。配達もしなくていいですしね。何億かかかるかわからないので、本当に夢ですけどね。

か:夢とおっしゃいますが、石田さんはそれに向かって一歩一歩進んで行く方なんだと思います。

石:自分がワクワクする、やりたい。単純にそれだけですね。現実は厳しいですが、茅ヶ崎漁港や茅ヶ崎漁業組合が、いい方向に進んでほしい。僕は50歳ですが、次の次の世代のことを考えて今動かないと。腹を決めてここまで来ているので、やれるだけはやります。

か:石田さんは、海の魅力を多方面に伝えて、海の恵みにも期待してもらえるような流れをつくっていこうとされているのかな、と思いました。SDGsも、「地域で産業が回って幸せに生きられるいい循環を生み出そう」と言っていますが、まさにそういうことだな、と。レジャーだけじゃなくて生業の海として市民のみなさんにも関心を持ってもらいたいですよね。

石:今は地球上の営みがすべて人間が決めたことで成り立っていますが、これでいいのかな?って思うんです。僕らは自然の恵みをもらって生きていますが、恵みはちゃんと食べられて初めて価値になります。売れないから捨てるのではなくて、命の受け皿をつくらないと。魚市場はその役割を果たすと思います。

か:普段命を扱っているからこそのお話ですね。事業をおこした石田さんの根本にある想いを、僕も伝えていきたいと思いました。


茅ヶ崎イシラス


南湖6-18-3  ☎0467-39-6935
10:00〜16:00 火休

2018年8月オープンした、水産加工、卸売、店頭販売店。最新の蒸気釜で茹でた釜揚げしらすや生しらす、刺し身、干物等、茅ヶ崎漁港で水揚げされた魚介類の各種加工品を卸販売する他、一般客向けの店頭販売も行なっている。          

茅ヶ崎イシラスのしらす取扱鮮魚店

魚卓(東海岸北)、魚静商店(元町)、魚春商店(共恵)、
魚助(南湖)、魚国商店(寒川町)

蒸気釜
石田さん自慢のステンレス製の蒸気釜の底には穴の空いた管が通っており、管の中には常に100度以上の蒸気が回る。穴を開くと高温の蒸気が泡として出てくるため、氷詰めした生しらすを入れても温度が下がらず、一気に茹で上げることができる。




かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。

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