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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.17 茅ヶ崎市立小出小学校
井上泰希(たいき)先生

明治6年(1873年)創設の茅ヶ崎市立小出小学校。学校のシンボル的な無患子(むくろじ)の木の前で

子どもたちが自分で人生を切り開くために、
学校と社会をつなぎたい。


 今回の対談の舞台は茅ヶ崎市立小出小学校。
通常の学級を経て2年前から特別支援学級を担当されている
井上泰希先生にお話を聞きました。

 自らの原体験から得た気づきを
子どもたちに伝えようとしている井上先生。
かわていさんとの対談を通して、その本質的な価値が
“5つのP”というキーワードで照らされました。

「どう生きたいのか?」を考える授業で、
社会に目を向けるきっかけを

小出小学校教論 井上泰希先生
茅ヶ崎市立小出小学校教諭。20年の教師生活の中で社会に目を向けることの大切さと茅ヶ崎のまちの魅力に気づき、総合的な学習の時間で地域の方々を授業に招く等、学校と社会をつなぐ授業を展開。2年前より特別支援学級を担当。山口県出身、茅ヶ崎市在住。

か:井上先生はなぜ教師になられたのでしょうか?

井:振り返ってみると2つのきっかけがありました。1つは小学校2年生の夏に家族旅行で広島に行ったことです。私は山口で生まれ育ちましたが、平和記念公園に行って衝撃を受けました。今でも発疹ができてその数時間後に亡くなった兵士の顔はずっと脳裏に焼き付いているほどで、戦争は絶対やっちゃいけないと思いました。これは伝えていかなきゃいけないな、と。

か:2年生の体験が大人になる過程で滲み出て行ったのですね。

井:はい、大きな原体験です。もう1つは小学校4年生のときの担任の先生の影響ですね。すごく話がわかりやすくて中身に奥行きもあって、自然に聞いてしまっていて。そうしたら勉強がわかるようになったんです。私はそれまで勉強についていくのがやっとでしたが、先生のおかげで、「話を聞けばわかる→わかれば面白い」という好循環が生まれました。とにかく感謝しています。

か:先生の影響は大きいですね。SDGsを伝えるときも「なぜ取り組むの?」ということを考えてもらわないと、絶対に「自分ごと」にならないんです。井上先生は、その先生のおかげで「なぜ勉強するの?」ということが腹落ちしたんでしょうね。

井:先生に「自分のため」と言われても音として聞いているだけなんです。「自分のためってどういうことだろう?」と考えたり、「こういうことが自分のためになるんだな」ということが、ちっちゃいことでも積み重なれば腹に落ちるんでしょうね。

か:そうですね。僕は先生と逆で、小学校高学年の頃から勉強についていけなくなって中学受験にも失敗しました。高校でも大学でもそういう腹落ちが一度も起きなかったから、勉強意欲が湧かなかったんだと思います。

井:私は子どもたちには基礎学力も身につけてほしいですが、社会に目を向けてほしいと思っています。学校と社会が全然違う場所じゃなくて出入り自由な感じでつながっていれば、自然に生き方を考えられるかなと思うんです。以前4年生の担任だった時、他のクラスの先生と力を合わせて、総合的な学習の時間で「仕事ってなんだろう?」ということを考える授業を考案して実践したことがありました。社会人を経て教師になった先生や保護者に仕事についてインタビューしたり、卒業生や茅ヶ崎で活躍している方に話を聞いたりして、「じゃあ自分はどう生きたいのか?」を考える授業です。

か:ここ、「拍手」って書いてくださいね。小学生の時から自分と社会の接点を感じながら生き方を探るような学習をすることはすごくいいですね。僕も今回そういう気持ちで本(※欄外)を書きましたが、常に主体的に考える人生観を身につけて成長していくと、全然違う社会観を持った逞しい大人になるんじゃないかなって嬉しくなっちゃいました。

その子が心地よくいられるための
「特別支援学級」という存在

きれいごと委員長 かわていさん

か:井上先生が担当されている特別支援学級(※欄外 以下「支援級」)のお話も聞かせてください。SDGsではダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括・一体性)をとても大事にしていて、「誰一人取り残さない社会をつくろう」というフレーズも社会に浸透してきました。障がいのある子どもたちを同じクラスの中に”混ぜる“のではなく、支援級という形で”分ける“ことについてはどうお考えでしょうか?

井:考えというより子どもたちの様子を見て気づかされることですが、その子に合ったペースでその子の課題にじっくり取り組める場所という点は、支援級のよさだと思います。子どもたちにとっての心地よさや、その子らしくいられるかということは、大切な視点のひとつではないかと思います。

か:なるほど。分けられることで安心と感じるのですね。僕が中学生のときは障がいのある子も一緒に教室に座って授業を受けていて、一生懸命コミュニケーションを取ろうとした記憶も残っています。だから僕も障がいに対して特別視しないようになったと思うのですが、小出小学校では支援級と通常の学級の子どもたちが混ざる機会はあるのでしょうか?

井:茅ヶ崎の小中学校では「交流」と言って、通常の学級で学ぶ機会をつくっています。国語だけ通常の学級に入る子もいれば、音楽や理科、外国語で一緒に学ぶ子もいる、といった形で柔軟に対応しています。

か:今話を聞いていて、僕の中学もひょっとしたら全部の授業が一緒という訳ではなかったのかもしれないと思いました。交流の時、通常の学級の子どもたちはどのような様子ですか?

井:通常の学級の児童同士の関わりと変わらない子、さり気ない気配りをする子、関わりが少ない子などさまざまです。保育園・幼稚園や小学校低学年から関わっているとそのつながりが生きていると感じます。

か:小さい頃から特別視しないことが大事なんでしょうね。

井:そのままを受け入れて「これがAさん」という感覚が小さい頃からスッと入っていると、特別じゃなくいつでもつながっていられる自然な関係になるのかなと思います。

“5つのP”に目を向けて、
子どもの心に火をつける

か:支援級に付けられた「むくろじ級」という名前が印象的ですね。

井:学校のシンボル的な樹齢100年を超えると言われるの木から取った名前です。今年度は11人の児童が「むくろじ級」で学んでいます。

か:僕らの子どもの頃よりも障がいの種類も障がいがあると言われる子どもの数も増えているような気がします。これまでは、子どもたちからのシグナルや大切な個性に対して、無理解だったのかもしれないと思いました。

井:医療分野での研究が進み、障がいの種類や障がいのメカニズムが分かってきたことがあるのではないかと思います。

か:多様な子どもたちを個性として受け入れる優しい社会になっているんですね。そんな子どもたちが自分の人生を切り開いていくことを応援している先生たちを、僕たちも応援していきたいです。

井:こうして学校現場のことを伝えてくださるのは本当にありがたく思います。でも学校だけではなく、茅ヶ崎市社会福祉協議会・保護者・放課後等デイサービスの方々と連携して、みんなで子どもの現状と将来を考えて育てていると思っています。

か:まさに今日の井上先生の話は、SDGsの17のゴールの前提にある”5つのP“の話だと思いました。People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)。これらを子どもたちに伝えている。僕はSDGsを通して人の心に火をつける役割ですが、先生も同じですよね。

井:同じだと思います。私はただできることをやっているだけですが、実は”5つのP“を大事にしていたということを気づかせていただきました。一人ひとりができることは小さくても、それが積み重なっていけば少しずつ17のゴールに近づいていくのではないかと思います。

か:そうなんです! 井上先生は原体験から平和について伝えようとしている。これは”5つのP“のPeace(平和)がなぜ大切かを伝えていることそのものなんです。

井:先ほども教育施設業務員さんと、「気候変動で今年みたいに梅雨が短くなったら、これからを生きる子どもたちにとっては厳しいなぁ」と話していたんです。10年後のために、今行動しないと。

か:今ある風景を守るためにみんなで行動しよう、ということですね。今日はSDGsの本質を語り合えた有意義な時間になりました。ありがとうございました!

※特別支援学級
小・中学校に設置されている障がいのある児童生徒を対象にした少人数の学級。茅ヶ崎市立小学校では全19校中11校、中学校では全13校中8校に整備済み。茅ヶ崎市教育委員会では、2030年までに全ての小・中学校に特別支援学級を整備することを目指している。

かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。

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