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映画作家 安田ちひろの湘南 つれづれ 日誌

「花の枯れ方」

安田ちひろ

 人間にも寿命があるように、花にも寿命がある。

 バラはだいたい10年ほど。1年目の幼年期、2、3年目の青年期、3〜10年目の老年期。私は現在32歳、一番花を咲かせやすい青年期にあたる。青年期に生きている自分は、いかに花を咲かせるかには躍起になるが、どうやって枯れていくかは考えたことがなかった。

 現在、私は祖母の自宅介護を手伝いに実家に帰っている。

 介護といっても、末期癌で治すことはできない。母は点滴で延命することではなく、自然の流れでの死を尊重するために自宅での緩和ケアを選んだ。

 祖母は寝たきり、認知症、夜中に1時間ごとに起きるため、常に誰かがついていなければならない過酷な介護だ。これを母は1ヶ月1人でやれたのがすごい。

 介護者でもそれほど辛い戦いであるが、患者本人はもっと苦しい。

 祖母は毎晩「もう死にたい」と言っていた。体が痛くて辛い、寝たきりで何もできない、周りに迷惑をかけたくない、色んな気持ちで「もう人生を終えたい」と言っているのだと感じた。私にもそんな時期があったので、祖母の気持ちに共感でき、苦しかった。

 そんな中でも祖母にとって幸せなことは、ここが病室ではないこと、独りではないこと、家族に助けられていることだ。私は入院をしたことがあるが、病室ほど孤独な場所はない。そして、助けを求めたら家族がすぐに来てくれるのだ。これはめちゃ贅沢なことだ。そんな環境を最後に作り出せたのは、祖母の今までの人生で大事にしてきたモノの証明であると思った。

 そして母と私が見ている中、祖母は静かに息をしなくなった。

 本当に静かで、それを見て私は、花が枯れたようだと感じた。


安田ちひろ

安田ちひろ Chihiro Yasuda
1987年生まれ、茅ヶ崎在住。。大学在学時に自主映画制作を始める。関西TVドラマ「大阪環状線」第8話脚本など。湘南にて映画制作コミュニティ『スタジオMalua』を立ち上げる。プロアマ7名の作家による江ノ電1駅ごとの短編オムニバス映画「江ノ島シネマ」企画・プロデュース。

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