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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと
“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと
vol.09 FLOWER COFFEE / BREW BAR 平尾智一さん
フリージャーナリスト フィオドレンコ・オードリーさん
美味しいコーヒーのある
スモールシティ・茅ヶ崎は幸福度が高い!?
豊かな果実味のスペシャルティコーヒーで、
地域に新しい価値を。
”きれいごと“そしてSDGsにも直結する希少なスペシャルティコーヒー(※欄外)を柱に、まちに新しい潮流を起こしていきたいと語る平尾智一さん。
一方でフィオドレンコ・オードリーさんは、茅ヶ崎は世界でも有数の魅力的な“スモールシティ”であると語ります。
暮らしていると意外に見えなくなってしまうまちの魅力、その先に見据える新たな可能性とはー
「世界のベストスモールシティ」
5位のまち・茅ヶ崎!
か:僕はFLOWER COFFEEの常連ですが、平尾くんは雄三通りでいつも人の流れを見ていますよね。茅ヶ崎のまちにコロナ前からの変化を感じていますか?
平:働き方や価値観の変化から移住が増えている体感があります。以前はお客さんの約8割がこの通りで生活されている方を中心とした常連でしたが、最近は新しくご来店いただく方が多くなっています。実際に茅ヶ崎市の人口もここ数ヶ月、前年比で500人以上増えている(※欄外)んですよね。
か:どこに惹かれるんでしょうね。
オ:茅ヶ崎は、イギリスの国際情報誌『MONOCLE』が発表した「世界のベストスモールシティ25(※欄外)」で日本の都市で唯一、5位に選ばれたんです。私は偶然茅ヶ崎在住でしたから、記事執筆を依頼されてとても驚きました。地域の人には知られていないのが残念です。
か:実は! 今回このお話を伝えたかったんです。どういうところが評価されたんでしょう?
オ:評価指標には、人口20万人規模のまちであること、都市や国際空港などへのアクセスが良いこと、住居費用が比較的手頃であること、ローカルメディアが存在することなどがあります。その他にも、新規ビジネスを始めやすいことや自然豊かであること、賑やかで活気のあるエリアがあることなど、基本的な生活環境を整えやすいことが基準になっているようです。また、芸術に親しめる場所があることや朝早くから美味しいコーヒーを飲める場所があることも指標にあります。
か:コーヒーが基準に含まれているのは面白いですね。
平:世界的には優先度が高いのでしょうね。僕の尊敬するバリスタも「コーヒーが美味しいまちは幸福度が高い」と話していました。コーヒーの魅力はその味わいやリラックス効果などいろいろありますが、ときに一杯のコーヒーは人と人をつなぎます。そのコミュニティから新しい文化的な動きが生まれることは世界中で起こっていますし、地域の豊かさの指標にもなり得るのですね。
オ:私はヨーロッパ各地を訪ねましたが、大都市でもコーヒーが美味しくないお店やエリアも多くありますので、質の高いコーヒー店が身近にあるこのまちの人々は本当に幸せだと思います。美味しいコーヒー店がひとつあるだけで、まちの雰囲気は良くなります。
平:特にスペシャルティコーヒーは、味わいだけでなく産地や農園など背景まで伝えて提供するので、コミュニケーションが生まれやすいです。お客さん同士が自然と教えあってくれることもあります。こうした一方向ではないつながりからまちに心地よい流れが生まれていくんだと思います。
か:なるほど。コーヒーそのものだけじゃなくて、そこに集う人との会話も魅力になるんでしょうね。いいコーヒーがあればみんながまちに愛着を持つ。SDGsにコーヒータイムは欠かせないのかもしれません(笑)!
スペシャルティコーヒーをまちの新しい魅力に
か:茅ヶ崎にはどんなコーヒー文化があったのでしょうね。
平:コーヒー文化には時代ごとに流れがあって、初期は喫茶店です。続いてスターバックスの上陸でスタイリッシュにエスプレッソマシンで抽出されたコーヒーが広い世代で楽しまれるようになり、ここ20年ほどは生豆の質にこだわったスペシャルティコーヒーが広がってきています。茅ヶ崎は早くから豊かだったのでしょう、喫茶店から大手チェーン店まで幅広くありますし、自宅でコーヒーを淹れるという方も沢山いらっしゃいます。
か:知らなかった。そういう茅ヶ崎の人たちに、スペシャルティコーヒーも知ってもらえたらいいですね。
平:はい。ただスペシャルティコーヒーは高価で、それまでのコーヒーと味わいも淹れ方も違うので伝え方が難しいです。僕自身、初めて飲んだ時は驚きから飲めなくなってしまったんですよね。でも、豊かな果実味はこれまでコーヒーが苦手だった方にこそ楽しんでいただける可能性もありますので、ゆっくり時間をかけて広くその魅力を伝えていきたいです。誰かにおすすめしたくなるお店があると、なんだか住んでいる地域に自信が持てませんか。そんな存在になれるように頑張りたいです。
か:そうですね、僕はもうおすすめしていますよ。
平:ありがとうございます。これはまさに”たくらみごと“なのですが、スペシャルティコーヒーが茅ヶ崎の産業のひとつになったならと考えています。小さな一歩として、昨年はロースターを購入し一部自家焙煎をスタートしました。少しずつ茅ヶ崎ローストのスペシャルティコーヒーを外に向けて紹介していく計画です。
か:茅ヶ崎らしいクリエイティブな暮らし方を広めるとともに、茅ヶ崎ブランドのコーヒーを世界観とともに世界に向けて発信していく。そんなスペシャルティコーヒーの役割が見えてきました。せっかく世界5位のスモールシティですし 、世界中に伝えていただきたいですね。
オ: ”アロハ“のイメージの他にも、新しい茅ヶ崎市のポテンシャルをさまざまなかたちで発信していけたら素敵ですね!
世界中の同志たちと手を取り、
コーヒー文化を守り継ぐ
平:でも実は美味しいコーヒーは30年後には飲めなくなるかもしれないと言われているんです。
か:コーヒーの「2050年問題」ですね。
平:気候変動の影響で2050年までにコーヒー(アラビカ種)栽培に適した土地が現在の50%にまで縮小すると言われる中、世界的な需要は拡大傾向にあります。需給バランスが崩れて取引価格が上昇するだけでなく、生産者は減少し、コーヒーの品質が低下していくと危惧されています。それに対して美味しいコーヒーを維持向上する取り組みも世界中で行われているので、そのストーリーも含めてお客さんに届けることで僕は業界を応援したい。2050年以降も美味しいコーヒーが飲める世の中であってほしいので。
か:サステナビリティ(持続可能性)ってそこですよね。地球規模での生産システムを理解してみんなで守っていかないと、美味しいコーヒーも飲み続けられない。
平:僕ら小さなスペシャルティコーヒー店は、業界一丸となってコーヒー文化を守ろうとしている感覚があります。先進的なお店では生産プロセスについて現地とディスカッションを重ねたり、資本力のない個人店同士は横でつながって共同買付けを行ったり。世界中のコーヒーラバーがSNS等でつながりながら、それぞれらしく動きまわっていますよ。
か:いいですね。政府主導の都市分散の動きもありますが、平尾くんたちは一 人ひとりの意志で世界中とつながっている。スペシャルティコーヒーの店が世界各地でその地域の豊かさになっていくようなイメージが湧きます。
平:スペシャルティコーヒーの本質的な魅力が飲み手に伝わって、そんな側面からも評価される茅ヶ崎になったらうれしいです。既存のコーヒーともうまく飲み分けていただいて、厚みのあるカルチャーとして楽しんでください。
か:気分やシーンによって自分で選んで飲めばいいんですよね。僕はスタバも飲みますし。
平:はい、そういった選択が生活に豊かさをもたらしてくれると信じています。茅ヶ崎の人は地元が好きでお金だけではない豊かさを知っている人も多いですし、お店に立っていると面白い経験を持った方や熱意のある若い人にも沢山出会います。コーヒーを中心に長く住む人も移住者も心から交わり、そのコミュニティから茅ヶ崎に新しい潮流が起こっていってほしいです。
か:素敵です。SDGsの「住み続けたいまち」にもつながっていきますね!
きれいごと委員長
かわていさん
博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。
FLOWER COFFEE / BREW BAR
(フラワーコーヒーブリューバー)
茅ヶ崎・雄三通りのコーヒースタンド。時期により異なる産地・農園の豆それぞれの特徴を丁寧に引き出した スペシャルティコーヒー を、ハンドドリップまたはエスプレッソにて提供している。
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東海岸北1-7
☎️0467-37-6618
10:00〜19:00 不定休 Pなし
Instagram@flowercoffeebb
スペシャルティコーヒー
生豆の質にこだわり、専門家がスコアシートに則って80点以上をつけたコーヒー。ナチュラルワインのように産地ごとに異なる、コーヒー本来の華やかでクリーンな果実味が楽しめる。現在の流通量は、コーヒー全体のうち5%ほど。味わいだけでなく、トレーサビリティ(追跡可能性)やサステナビリティ(持続可能性)を大切に考える人々の手によって、日本でも主に小さな店舗で地域ごとに伝えられ、専門店が増えつつある。
茅ヶ崎市の人口推移
2020年12月は前年比+530人、2021年1月は+574人、2021年2月は+566人と人口が推移し、2021年2月1日現在は、24万2452人。(茅ヶ崎市ホームページより)
ビジネスやライフスタイルを発信するイギリスの国際情報誌『Monocle(モノクル)』が、大きな都市からQOL(Quality Of Life)の高い小さなまちへの移住が進むことを予測して調査し、2020年1月号で発表。トップ5は以下の通り。
・1位 ローザンヌ(スイス)
・2位 ボルダー(アメリカ)
・3位 ベルゲン(ノルウェー)
・4位 ホバード(オーストラリア)
・5位 茅ヶ崎(日本)
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川廷 昌弘 / 松韻写真日記 2021年04月04日版
SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。
writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。