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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと
“きれいごと”で茅ヶ崎はもっと面白くなる!?
かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと
vol.14 ちがさき牛 齋藤牧場
齋藤忠道さん
最短4日で直売し、2週間で売り切る。
地域と調和し、地域で循環する
「ちがさき牛」ブランドを育てるために
2021年末、「チガサキのたくらみごと」取材班は、芹沢、里山公園にほど近い緑豊かな場所に佇む齋藤牧場を訪ねました。
約6000坪の敷地内には、新旧2つの牛舎があり、艷やかな毛並みが印象的な100頭の牛の姿が。入口付近には「ちがさき牛」の直売所もあり、新鮮な精肉を求めて、市内外から訪れる人の姿も見られました。
兄・勝己さんとともに牧場を経営し、主に販売を手がける齋藤忠道さんに、「ちがさき牛」のこだわりとたくらみごとについて聞きました。
「齋藤牛」ではなく、
地域ブランドとしての「ちがさき牛」
か:「ちがさき牛」という名前、とてもいいですよね。いつ付けられたのでしょうか?
忠:10年前に直売所を始めたとき、屋号として申請を出した名前だったのですが、そのままブランド名にしました。
か:「齋藤牛」としなかったんですね。
忠:いま、ちがさき牛の肉牛農家はうちだけですが、茅ヶ崎には乳牛農家が6軒あります。もし彼らが肉に切り替えるようなことがあったら、一緒に「ちがさき牛」として売り出して行けたら、という思いがありました。
か:なるほど。個人で抱え込まずに、地域ブランドとして広げよう、と。
忠:松坂牛や神戸牛のほか、この辺りでは葉山牛が有名ですが、地域ブランドがあれば販路も広げやすいですよね。茅ヶ崎にしらす以外の名産品をつくりたいという気持ちもありました。
か:僕は兵庫出身なので「神戸牛」と聞くと郷土への思いが高まります。茅ヶ崎市民としても「ちがさき牛」と言ってくれたほうが応援したくなりますね。生産者と消費者が一緒になって地域ブランドを育てることができそうです。
忠:そうですね。直売を始めた2ヶ月後には市長(当時の服部信明市長)が記者会見で発表してくれましたし、その後も、実際に買ってくれたお客さんや飲食店で食べたお客さんがリピーターになって口コミで広げてくれています。
か:一番確実で強い広がり方ですね。ちがさき牛はすごくめぐり合わせが良くて、食べると幸せをおすそ分けしてもらえそうな気がしてきました(笑)。
忠:実は牛肉を食べたときにしか脳内に分泌されない幸せホルモンがあるんですよ。豚でも鶏でも出ない、牛肉特有の現象らしいです。
か:へぇ、それは知りませんでした。確かに焼き肉はワクワクしますし、ステーキは幸せな気持ちにもなりますよね。
「この牛肉なら、安心して買える」
消費者の声を糧に
か:幸せの象徴みたいな「ちがさき牛」ですが、直売所では新鮮なものが購入できるんですよね。どのくらいで冷蔵庫に並ぶのですか?
忠:うちで育てて出荷し、厚木で屠畜しますが、屠畜から最短4日で直売所に並びます。すべて2週間で売り切るので、鮮度には自信があります。
か:肉は熟成させると聞いたこともありますが、新鮮な方がオススメですか?
忠:僕は早いほうが臭みがなくて美味しいと思っています。海外のように放牧している牛の肉は柔らかくするために熟成するんですが、日本の牛は牛舎で育てるのでもとから柔らかいんです。それに出荷前、牛が成長しきって食が細くなることを「枯れてきた」と言いますが、僕はその状態は「生きながら熟成しているんじゃないか」って思っています。
か:なるほど、面白いですね。ちがさき牛の味の特徴も教えてください。
忠:お腹に優しくて消化にいいことですね。神奈川牛全体の特徴としてオレイン酸の数値が高く油の融点が低いのですが、体内で固形化しないため胃もたれしにくいんです。実際、直売所にサーロイン1枚を買いに来た高齢の夫婦が、またすぐに来て「1枚じゃ足りなかった」と、今度は2枚買ってくれたことがありました。
か:それはうれしいですね。飼料が影響しているのでしょうか?
忠:そうですね。小麦やとうもろこし、おからやビール粕のほか、ミネラル豊富な海藻など15種類の飼料をブレンドして井戸水とともに与えています。飼料代はかかりますが、やはり身体にいいものを食べさせたいので。
か: ナチュラルなものを食べさせていることは、美味しさはもちろん、安心感にもつながりますね。「ちがさき牛完熟堆肥」を使う農家さんにとってもうれしいこだわりだと思いますし、より良いものが地域で循環していきます。
忠:牛肉は安全面で不安に思われる方も多いですが、うちの牛は放射能によるセシウムも検出されず狂牛病にもかかっていないので、安心して食べていただけます。以前、2〜3歳のお子さんのいるお母様がバスツアーの一環で見学に来てくれたんですが、餌や検査結果について話したら、「これなら安心して買える」って言ってくれて。その方は、震災以降牛肉を一切食べていなかったとのことで、あの言葉は一番うれしかったですね。
最終目標は、
「地元に来ないと食べられない幻の牛」
か:直売所を開いて10年ですか。「自分たちの責任で消費者と向き合おう」という覚悟だったと思いますが、生産者も消費者も日本人みんなが食の流通に関心を持たざるを得ない期間だったと思うので、よい決断だったのではないでしょうか。
忠:セールス能力が皆無で最初は本当に苦労しましたが、みなさんに応援していただいたおかげで、ありがたいことに続けてこられました。
か:自分の責任で消費者と向き合っていこうとされたことが、今につながっていますね。SDGsも「大量生産・大量消費でおかしくなった流通を感謝の気持ちで見える化してつなぎなおしましょう」と言っていると僕は考えていますが、畜産を商売ではなく人や地域の営みとして捉えれば、地域の経済にも自然環境にもいい循環が生まれるんじゃないかと思いました。これからの構想はありますか?
忠:生産から加工まで担う6次産業化の認定を受けたので、ゆくゆくは敷地内に飲食店もつくって、牛を見て食べて買って帰れる、他市他県からも人が来るような場所をつくりたいです。販売できる量も限られているので、他の地域に販路を広げるよりも茅ヶ崎で食べてもらいたい。『地元に来ないと食べられない幻の牛』になることが最終目標です。
か:いいですね。地産地消やオーガニックなど、自分たちの選択が環境に影響していると考えて消費行動をする人々も増えてきたので、ちがさき牛はまだまだ伸びしろのあるブランドだと思います。これからは生産者の声がますます重要になってきますね。今日も「生きながら熟成」という話などは実感として伝わってきました。
忠:SNSなどの発信は苦手なんですが(苦笑)、こうやって話すとみなさん面白がってくださるので、ちょっとずつ伝えていきたいと思います!
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きれいごと委員長
かわていさん
博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。
SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。
writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。