〈海辺の朝市〉花の生産者さん2
　横山貞裕

35年でようやく少し水やりのことが分かり始めてきました

　驚いたのが横山さんの忙しい手元のホースの動き。どうやら鉢の一つ一つに水を与えているらしいのです。鉢を裏返して水が出る隙間を指差し「これ乾いてるでしょ、冠水するくらいたっぷりあげる。そうでないのは少し。だって飲みたくもないのに無理やり口開けてまで水飲まされたくないでしょ」　また、隣どうしの鉢を２つもちあげ、「この鉢とこの鉢、株の大きさが違うでしょ、もう水の要求量が全然違うわけです」素人にはその大きさの違いが……。

　猫は喉が渇いたら水くれ、と言うけど花は言わないから難しいのだと横山さん。この道35年、ようやく少し水やりのことが分かり始めてきたのだそう。

植物の性格にあった環境がどれだけ作れるか。「育てるレシピ」を自分なりに繰り返し作っていく

　同じ温室内でも場所によって温度が違う。横山さんの頭の中では常にその温度が把握され、そろそろあの窓を開けろ、と信号が送られてくるらしい。「高品質な花を育てるためにはそれぞれの植物の個性、性格にあった環境がどれだけ作れるかがポイント。その『育てるレシピ』を自分なりに繰り返し作っていくわけですね」

　先代はシクラメンの技師で全国からの志願者を延べ40名も育てあげた。この4月からは更に三代目が加わる。

写真：奥田正治　文：小嶋あずさ