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川廷昌弘さんと語り合う チガサキのたくらみごと

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かわていさんと語り合うチガサキのたくらみごと

vol.16 長谷川書店
長谷川義剛さん 長谷川静子さん

“はせしょ”の愛称で親しまれる長谷川書店。

1947年創業、茅ヶ崎が誇る”まちの書店“です。

会長・長谷川義剛さんからは書店ができた頃の茅ヶ崎の話を、そして義剛さんの娘であり取締役 店長の

長谷川静子さんからは、まちに生かされ、まちに生きる書店づくりの真髄を教えてもらいました。

神田で買い付けた本を電車で茅ヶ崎まで。
窓からホームにぽんぽん落とし……

か:親子でご登場いただけて嬉しいです。1947年にお父様が創業されたとき、義剛さんはおいくつでしたか?

義:私は今年88歳になりましたが、1934年生まれで当時はまだ中学生でした。父が一生懸命雑誌の配達をしていましたので、兄弟で手伝いました。本はまだあまり無く、月刊誌の『明星』や『平凡』、子ども向けの『少年クラブ』や『少年少女』が人気だった時代です。戦後復興の真っ只中でクロネコのような流通なんてなかったから、茅ヶ崎駅に貨物列車が到着するとリヤカーを引いて本を取りに行っていました。他の商人たちもわんさかいましたね。

長谷川書店 会長  長谷川義剛 さん

か:義剛さん僕の父と同じ学年! とても親近感が。

義:「かつぎ」という方法もありました。東京・神田の問屋街まで電車で買い付けに行って、帰りはなるべく窓に近い席に座るんです。茅ケ崎駅に着いたら窓を開けてホームにぽんぽんと落として、それを拾ってまとめて腰から頭まで担いで。一旦駅の前に置いて、家に戻って自転車を取ってきて店まで運んだ。こんな感じのスタートですよ。

か:懐かしくて勢いのある昭和の風景が見えるお話ですね。当時の茅ヶ崎の人口はどのくらいだったのでしょう?

義:5万に満たないくらいで”大きな田舎”と言われていました。今の市庁舎の辺りはずっと田んぼで、一本松があって。北口から東海道に続く道が一本あって、南口は魚市場に向かう通りがあっただけ。本店がある辺りが一番賑やかでしたね。

ネスパ茅ヶ崎店6階にて 

茅ヶ崎の”知の入口”でありたい

か:今年で創業75年なんですね。全国でまちの書店が激減する中で、長谷川書店は茅ヶ崎市内に3店舗も営業されている。本当にすごいことですよね。

静:30年前は全国に2万1千件軒ほどの書店がありましたが、今は2千8百軒ほど(日本書店商業組合連合会に加入している書店数)になってしまいました。日本全国に書店のないまちがたくさんある状態です。世の中がガラリと変わって時代の荒波に揉まれて、それでも長谷川書店のスタッフはコツコツと一冊一冊を販売してくれています。みんなが一生懸命やってくれているからこそ、今があるんですね。

か:本当に苦しいところで戦ってこられていますよね。商売だけを考えるのではなく、家族一丸となってコツコツ地道にやってこられたからこそ、まわりも助けてくれるのではないかと思いました。

取締役 店長   長谷川静子 さん

静:まちへ協力したいという想いでずっとやっております。本との出会いは素敵なことでしょう。駅前の商店街の入口で商売させていただくからには、やはり知の入口と言いますか、茅ヶ崎の知的レベルを上げられるように努めていきたいと思っています。

か:学ぶ好奇心は年齢に関係なくあると思いますし、さまざまな学びが得られる場所、知の拠点であってほしいです。

静:ネスパ店初めての夏休みに、「しかけ絵本教室」に参加した保護者の方から「宿題もなくて夏休みなのにやることがないから助かる」という言葉をいただき、「夏のすいせん図書」を山積みしたのに全く売れなかった理由がわかりました。私は夏休みには読書感想文を書くのが当たり前と思って育ちましたが、変わってしまったのですね。当時は学級崩壊が社会現象でしたし、21世紀を担う子どもたちがこのままでいいわけがない、と思いました。

か:読書のきっかけがなくなってしまったんですね。

静:それならば書店が、幼い頃から親と子の肌のふれあいによる心の成長の時間をつくろうと思って始めたのが「絵本とおはなし会」です。月1回、25年ほど続けてきて、今では270回を超えました。その後「かみしばい劇場」も毎月開催するようになり、夏休みの「しかけ絵本教室」も続けています。

か:市民の期待に応え続けてきたんですね。

静:そうしたら今度は大人向けにも何かやってほしいとい う声もあり、自分史を書く会や、編集者の方に雑誌ができるまでのお話を聞く会も開きましたし、お客様のご要望で俳人の黛まどかさんをお招きしたこともありました。長谷川書店ではこういった読書推進活動と、本の販売との2本柱で取り組んでいます。2017年には地域の皆さんと「本がだいすきプロジェクト ちがさき」も立ち上げました。

本がだいすきプロジェクト ちがさき

「子どもだけでなく、すべての市民が本を好きになってほしい」という思いで、市立図書館や地元書店、NPO等本に携わる関係者がオリジナル缶バッジをつけて啓発事業を行うプロジェクト(2017年〜)


待ち合わせは“はせしょ”でどうぞ

か:長谷川書店はこれからどう歩んでいくのでしょう?

静:今、まちの書店の価値を問われていると感じています。2013年に東京国際ブックフェアで「地域との信頼関係こそ、まちの書店が生きる鍵」というテーマでお話をさせていただきましたが、地域の方と感動を共有できるような場を提供することで、まちの書店が生かされていくのではないか思っているのです。

か:商売というよりも、コミュニケーションの話ですよね。市民一人ひとりが持っている世界観や興味を広げたり深めたりしてくれる「本」を間に置いて、長谷川書店は地域の人とのコミュニケーションをしている。だからこそ今もこうして続いているし、これからの期待にもつながるのだろうなと思います。

静:とにかく、お客様にワクワクしてもらいたいんです。こんな不安定な時代でも、知の湧き出る本を手に取って、ワクワクしたり勇気をもらったりできる店舗でありたいなと。子どもたちはもちろん、長谷川書店を通して読書を楽しんだ方が、大人の塗り絵や紙芝居のサークルをつくって発表会をここで開くようなことも起こっています。このような生涯学習のお手伝いもしていきたいです。本当に草の根ですけどね。

か:草の根だからいいんでしょうね。大手の書店は品揃え豊富ですが、まちの書店は草の根的な活動から育まれる共感や信頼関係こそが”強み“や”らしさ“

になると思いました。

静:一昨年でしょうか、ピシッとスーツを着た若い男性が遠くから私を見ていて。よく見ると小さい頃おはなし会に来てくれていた子で「長谷川さんのおかげで好きな学問を探求できて無事卒業できました」って大学の卒業証書を真っ先に見せに来てくださったんです。私、もう体が震えて涙が出てきちゃって。成人式には振袖姿の方も来て、「おはなし会で本が好きになりました。はせしょさんのおかげです」と伝えてくださいました。

か: 素敵です。書店の想いが伝わっている証拠ですね。

静:お客様の中には「いつものあの人」ってスタッフを指名してくださる方もいて、みなさんがご来店くださることで私たちも成長できます。ですから、ご利用いただきたいです(笑)。待ち合わせはぜひ”はせしょ”でどうぞ!

まちの書店、SDGsでは何番?

機能としては4番「質の高い教育をみんなに」と11番「住み続けられるまちづくりを」ですが、かわていさんは敢えて8番「働きがいも経済成長も」だと言い切ります。書店員にとってはお客様が来てくれることが働きがいになる上、それが売り上げにつながる。まちの書店の本質的な価値はここにあるのです。

「長谷川書店」の歩み

1947年 長谷川辰次さん(義剛さんの父)が共恵(長谷川書店本店)に創業

1957年 法人化し「有限会社長谷川書店」に南口駅前店オープン

1962年 南口駅前店オープン

1976年 鶴が台店オープン

1977年 南口の支店が近隣からのもらい火で火事に遭う

1992年 ネスパ店オープン

2013年 鶴が台店閉店

2022年 本店、ネスパ店、南口駅前店の3店舗で営業中

かわていさん

きれいごと委員長
かわていさん

博報堂にて37年間、国連における環境3大テーマ(気候変動、生物多様性、森林保全)からSDGsまで、国家規模、地球規模の錚々たるプロジェクトを手がけてきた。2023年に定年退職後は、日本写真家協会の写真家として活躍中。

かわていさん

SDGsは、2030年までに持続可能な社会を実現するために世界が合意した国際的な目標。2015年9月の国連総会で採択された。「貧困の撲滅」から「パートナーシップ」まで、社会、環境、経済の3つの側面が含まれた17の目標で構成されている。SDGs自体を目的化せず、コミュニケーションツールとして使いこなすことがポイント。


writer:池田美砂子
フリーランスライター・エディター。茅ヶ崎市在住、2児の母。
大学卒業後、SE、気象予報士など会社員として働く中でウェブマガジン「greenz.jp」と出会い、副業ライターに。2010年よりフリーランスライターとして、Webや雑誌などメディアを中心に、「ソーシャルデザイン」をテーマにした取材・執筆活動を開始。聞くこと、書くことを通して、自分が心地よいと感じる仕事と暮らしのかたちを模索し、生き方をシフトしている。

INFORMATION

長谷川書店 ネスパ茅ヶ崎店 

住所 茅ヶ崎市元町1-1 
TEL 0467-88-0008

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