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チガサキゴトよ、チーガ

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ずっと茅ヶ崎で暮らしたい

一番好きなアイス、何ですか?

「アイスクリーム、食べてく?」

 本誌取材後、小嶋編集長が駅前雄三通り終点にあるホブソンズに誘ってくれた。1年ほど前にオープンしたそうだが、言われるまでなぜかその存在に気づかなかった。うだるような猛暑の中、爽やかな空色ブルーの看板が目にも眩しい。

 ホブソンズは80年代にカリフォルニア西海岸から東京麻布に上陸し、その後日本各地にオープンしたが、店名のロゴが筆記体なのはサンタバーバラの本店と何と茅ヶ崎店だけなのだそう。そういう特別感って、ちょっと嬉しい。オーダーしたバニラアイスは、シンプルながら高級感があって文句なく美味。昔懐かしい青春の味、という気がしなくもない。

 というのも、ホブソンズがやってきたのはバブル真っ只中の85年。流行に敏感な若者たちの間で瞬く間に人気となり、大行列ができたことでも話題になった。大学時代、サークルの飲み会の待ち合わせ場所としてもよく使われていたような気がする。

 そういえば、同じ頃東京メトロ外苑前駅の近くにハーゲンダッツ1号店がオープンした。同じサークルの2個上の先輩に連れて行ってもらったのだが、当時お世辞にもおしゃれとは言い難かったダサダサ女子大生の私は、「うわー、青山でデートだー、ハーゲンダッツだー」とそれはそれは有頂天だった。

 ハーゲンダッツの味は予想を超える美味さだったが、誘ってくれたのがサークルの人気者で、附属校上がりのちょっと洒落た先輩だったということもその美味さに拍車をかけていたかもしれない。じつはその先輩が今のダンナで……とかだったら素敵なんだろうけど、その彼とは数回お出かけしただけで終わってしまった(「短大の子の方が四大の子より可愛いよね〜」と無邪気に言われてムッとしてしまったのです)。

 その後、ハーゲンダッツはコンビニやスーパーでも販売されるようになり、「リーベンデール」「aya(彩)」などの国産高級アイスも続々登場し、どれが一番と言えないほど市場に出回るアイスのクオリティは上がったが、忘れられない味は何かと聞かれたら、私の場合やっぱり「レディボーデン」と答えてしまう。

 ハーゲンダッツに比べて甘ったるく、垢抜けない部分もあるけれど、67年生まれの私にとって、生まれて初めて出会ったあのプレミアムな味、あのビッグなサイズは忘れがたいものがある。「大人になって一人暮らしをしたら、アメリカ人みたいに容器に直接スプーンを突っ込んで、テレビを観ながら食べたいだけ好きに食べるんだー」なんて考えたりもした。 ちなみにバニラに関していえば、現在MOW、明治エッセルスーパーカップの人気が高いらしい。ネットの投票ではハーゲンダッツやレディボーデンが1位になる週もあったが、安価なアイスがこれだけ盤石の人気を博すということは、もはやプレミアムに負けず劣らずの味と品質を獲得したといっていいのかもしれない。

 あれから三十数年が経ち、外苑前のハーゲンダッツは姿を消し、麻布のホブソンズに行列ができることもなくなり、レディボーデンを作ったアメリカの老舗ボーデン社は破産宣告をした。ロッテが製造販売を引き継いでいるため店頭からなくなることはないようだが、アイスの世界も諸行無常、栄枯盛衰、強者どもが夢のあと。

 編集長に奢ってもらったアイスを食べながら、そんなこともあったなーと、内心しみじみとしてしまったのでした。


藤原千尋
ふじわらちひろ/1967年東京生まれ、2006年より茅ヶ崎市松が丘在住/出版社勤務を経て単行本ライター。ビジネス、教育、社会貢献、生き方老い方など幅広いジャンルの企画とライティングを手がける。

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