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小さくなった茅ヶ崎館

明治32年に創業した海辺の宿、茅ヶ崎館。世界中にいる小津安二郎マニアや日本映画ファンを迎え入れてきた。この、映画を作る多く人たちからも愛されてきた無二の旅館が存続の危機にあることをご存知だろうか。127年続く茅ヶ崎館の五代目・森浩さんにこれまでの経緯を聞いた。

茅ヶ崎館の五代目・森浩章さん

現在の営業状況から教えてください。

バストイレ付きの離れのお部屋に、一日一組限定です。二番と三番のお部屋も宿泊は可能ですがお風呂場がありませんので、離れと同じグループの場合のみご利用いただいております。一番のお部屋は、取り壊した浴場の貴重な資材を保管しています。減築前とおなじ一番、二番、三番に泊まっていただくためには、やっぱり風呂が必要です。お食事は朝夕の2食。日本映画の生まれる、日本文化をたのしんでいただく茅ヶ崎館では日本食にこだわります。宿泊されなくても、ご予約のお客様に限りランチ営業もしています。

減築せざるを得なくなって浴場を壊した。

はい。これまで、第一種低層住居専用地域における旅館業の存続について、新聞などに記事を書いたこともありました。今回、浴場を復元するプロジェクトを立ち上げることができたので、すべてをお話ししようと思いました。

第一種低層住居専用地だとはじめて知りました。

昭和45年に用途地域の区分が決まりました。第一種低層住居専用地域では、茅ヶ崎館のような規模の商売はできないです。小さなカフェくらいしかできない。できないと言われても、元々うちが先にあったのにって話です。じゃあここは元からあるのだから除外しましょう、ではなく含められてしまいました。その瞬間から、毎年、固定資産税が倍額になっています。

50年以上も固定資産税が倍額ですか。

そのことに気付いたのは、2009年でした。何度も市に相談してきたのですが、特別扱いはできないなどの理由から現在に至っています。これまで余計に納税してきた金額を試算してみたら、8000万円ほどでした。そのお金があったら、もっといろいろな個所を修復・修繕できたのにと考えてしまいます。

2009年は茅ヶ崎館が登録有形文化財(建造物になった年。

全国的に登録有形が増えていった時代でした。登録有形というのは、所有者が国に申請するものです。茅ヶ崎市の教育委員会から、神奈川県の教育委員会を通して文化庁へ提出して、文部科学大臣が認定します。市内初でした。文化推進課や産業観光課が窓口ではないので、市は登録有形のシステムを知らなかったです。たとえば、小田原は文化を大切に扱っていて、城下町でもあるので歴史的建造物を活用した観光が活性化していますよね。茅ヶ崎にもそういった文化はたくさんあります。

登録有形文化財になったメリットはなかったと。

民間の力でがんばれ、です。そうすると、よくある外資系などの大きな資本に売却するしかないですよね。だから、非力ながら湘南邸園文化祭を21年、茅ヶ崎映画祭を15年ずっと、茅ヶ崎のみなさんにも知ってほしくて続けています。ここは、世界的なクリエイティブを作り上げている場所でもあるということを理解してほしいのです。


2019年には先代が亡くなられました。

相続税の負担も大きかったです。翌年から本格化するコロナ禍によって営業ができなくなってしまい、コロナ融資を受けました。これ以上の借り入れはできません。さらに木造建築の場合、建坪が700㎡を超えるとプールのような巨大な貯水槽を作って、屋内消火栓設備を設置しなければならない消防法があります。

木造建築だからですか。

はい。貯水槽と消火栓に5000万円以上かかります。ですから、補修しながら699㎡に減築して、土地の一部を手放しました。売却した土地に戸建て住宅を建てるためには道路が必要です。私道ではなく公道ですから、道路になる土地は市に無償で提供しなければならないのです。一方で、既存不適格(茅ヶ崎館のように国や自治体の都合で用途地域のルールが変わり、すでに建っていた建物がそのルールに合わなくなってしまった状態のこと)の旅館業が、減築したからお風呂場を新築したいといったって法律上は許されません。そこを認めてもらうのに、3年かかりました。

八方が塞がっています。

普通だったらやめるんですよ。やめたら、もう何も悩まないです。みんなやめました。同業で残ってるのは、もううちだけです。でもですよ、茅ヶ崎館なくなったら、残念だね、映画の人たちもう書く場所がなくなったねでは済まないと思います。相当な変化が起きると思いますよ。これからはもっと日本的なものを大事にしなきゃいけないと言うなら、この法律では大事にできないというところまで踏み込まないと。過去にできた法律が現状に合っていない。本当に不条理です。守らなきゃいけないものが守れない、それ守れなくていいんですか。そこに対してぼくは、ぼくのできることで徹底的に抗うつもりです。法律を変えるしかないんです。これはぼく個人の問題ではなくて、茅ヶ崎、国、世界の映画遺産の、社会的な問題なのだという意識です。

是枝監督の応援は心強いですね。

前々からなんとなくは話していましたけれど、共通の知り合いから、ようやく風呂場を建てることができる、その建築費をクラウドファンディングで調達するらしいとお聞きになったようで、声を上げてくださいました。とても有り難いです。是枝監督は、もちろん小津監督もですが、家族や人、その時代の社会問題をきちんと書いていらっしゃいますよね。そんな重要な作品が生まれている場所は、絶対に失くせないです。 

この機会に茅ヶ崎館の現状を知ってほしいですね。

はい。でも挫けますよ。古い建物だから、何かが壊れました、雨漏りしました、修繕するのに数10万円です。砂地のような地盤の上に建っているものですから、今の建築基準法に合せて基礎的な部分にもかなり手を入れています。むずかしい状況が、次々と襲い掛かってきます。

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文章:小島秀人 kanoa
写真:位田明生

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